『透明人間(2020)』
 かなり良い映画だったので紹介。

粗筋 光学研究の天才エイリドリアンの妻セシリアは、夫の横暴さに嫌気がさし家出した。友人宅に匿ってもらい2週間、夫が自殺したとの報に触れる。全てを夫にコントロールされていた過去を吹っ切り、新たな生活を始めるセシリア。だが周りで変事が重なり始め、夫は光学技術で透明になり自分を監視しているのではと疑い始める…。

①作品概括
 マーベル、DC、レジェンダリー…。業界のバース展開に古参のユニバーサルも、過去の自社モンスター映画をクロスオーバーさせる「ダークユニバース」を始動。ところが「ザ・マミー」の大コケによって構想は頓挫、今企画「透明人間」は独立した作品となった。けれど、プロデュースジェイソンブラム、監督リーワネルの座組となったことが結果的に功を奏することになったのです。

②リーワネルの手腕:語り口
 彼は脚本・制作側に回ることが多かったですが、監督の手腕もスゲェです。
 先ず伏線提示がめっちゃ上手い。冒頭で一瞬映るエイドリアン宅の実験装置、ジェームズ宅での脚立や消火器など、後々物語を動かすアイテムの配置が上手い。それも不自然な挿入ではなく、単独のシーンとしても機能する手際の良さで。実験装置は息を殺すサスペンスシーンで、消火器はゆっくりとしたカメラパンで(エイドリアンが潜んでいることを予感させる)不気味な場面で使われています。
 今作は、大作邦画にありがちなブッサイクな直接説明や回想が一切ありません。原案者のウェルズが理論構築や観察描写を多用する作家なのとは正反対で、こういうタッチの方が映画(特にホラー・スリラー)には向いていますね。飼い主が死んで1か月なのに犬がしれっと生きてるのも、エイドリアン実在の伏線なんですが「あら、アナタ良くいきていたのね」なんて無粋な台詞は出ません。
 
③リーワネルの手腕:ジャンル
 作品中盤はセシリアの「エイドリアンは生きてる!」の主張を周りが取り合わず、孤立する展開になっています。ここで重要なのが、怪奇現象はセシリア独りの時にしか起きないこと。第三者共々物理現象を目撃しないので、周りは(観客は)セシリア一人が精神を失調しているだけでは…と疑い始める。幽霊ホラーとサイコスリラーの線上に居るんですね。
  リーワネル周りのホラーと言えば彼が総指揮・脚本を務め盟友ジェームズワンが監督したインシディアスや、ジェームズワンが監督し爆売れシリーズとなった「死霊館」があります。それらでは幽霊(悪魔)は物理現象を確かに起こす実在感あるものだったのを思えば、差別化が図られていますね。

④リーワネルの手腕:アクション
 ラスト30分、透明人間をセシリア以外が目撃するシーンが遂に来ます。ここでのアクションが見事。人が虚空から殴られ、昏倒する…悪魔憑き、或いは「アントマン」で観られるアクションですが、絵面そのものは地味になりがち。ところがリーワネルはここで「動作者の体の傾きに合わせ画面が動く」手法を取りました。これはまさに彼の前作「アップグレード」にも見えますが、POV(一人称視点)ほど見づらくもなく、と同時にダイナミックでもある見事な場面になっています。

⑤透明人間設定
 透明人間の化学設定と言えば「体そのものが透明になる」というもの。ウェルズの原作がそうですし、バーホーベンの「インビジブル」もそうでした。一方、今作では「カメラ+透明ディスプレイのブロックが背景の映像を投影することで不可視化する」設定を取っています。映画では「プレデター」が有名ですが、現実の光学迷彩もこの方向ですね。
 これが良いのは、「眼球で光が屈折しないから盲目になる」だの、「裸だと寒いし足の裏痛くね?」だの細かい現実的欠陥が免罪されるところじゃないんです。全身を可視化した時のビジュアルのインパクトなんすよ!黒ブロックがモザイク状にビッシリ全身にまとわりつき、カメラが一斉にギョロギョロ動き回る…。石燕妖怪の「百々目鬼」みたく、絵面一発で「あ、こいつはバケモンだ」って分かるんですよ。そこまで「エイドリアン居るの?居ないの?」と煩悶してきただけに、見事な逆転ですよねー。

⑥短所
 強いて欠点を挙げるならば、透明人間の撃退シークエンスでしょうか。今までにないビジュアル的エグさを用意してくれたんだから、その倒し方にもフレッシュさが欲しかった。消火剤で体の輪郭を可視化する…粉、水、泥を使うのは今まで散々繰り返された王道手なんですわ。
 折角「光学迷彩」設定を取ったんだから、「ミッションインポッシブル:ゴーストプロトコル」のクレムリンシーンのような「この技術ゆえの欠陥」が良かった。複数の人間をカメラが認識したがゆえに、全員から100%不可視になれなくなり画面がバグる…とかね。
 とはいえ、エイドリアンとの最終決着はここではない。実の兄を洗脳し、妻の妹を殺し恬然とする彼に、その性格と空間を最大限生かした復讐で「ザマァwwww」を突き付ける。透明人間打倒の場面で観客のエモーションをそこまで高めずさっくり済ませたのは、戦略的なのかも…。

⑦結びに
 前述の通り「ダークユニバース構想」自体は潰えたんですが、今作invisible manの興行批評両面の評価を受け、ユニバーサルはホラーリメイク展開を大きく打ち出したそうです。その第一弾が何とあの「ドラキュラ」。ユニバーサル・ハマーの古典から、近年のティーン映画まで人気の一方、「ドラキュラゼロ」が実はダークユニバース欠番扱いと因縁深いモンスター。是非ドラキュラゼロのような在り来たり展開ではなく、今作のような意欲的なリメイクであってほしいところです。

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