海内無双のクソ映画!『ドクターデスの遺産 BLACK FILE』をこき下ろす
2020年11月29日 映画 コメント (2)
粗筋 「悪いお医者さんに父さんが殺された。」子供の通報に不審なものを感じた警視庁捜査一課の最強コンビ、犬養と高千穂らは葬儀場に向かう。ご遺体を一時預かり司法解剖に回したところ、体内からは多量の塩化カリウム反応が。
少年の母親を取り調べたところ、「尊厳死を請け負う闇医者、ドクターデスに依頼した」と証言する。ドクターデスのサイトを調べる捜査一課…そこで判明したのはドクターデスは何件もの依頼をこなしていたこと。事件は氷山のほんの一角に過ぎなかった…。
①作品概要と前置き
原作『ドクターデスの遺産』は中山七里の『刑事犬養隼人』シリーズの第4作目。ドラマ化もされた人気シリーズが、今回遂に映画化されました。
私個人は原作未読で、ネタバレサイトで粗筋をかじった程度…なんですが評を始めていきます。弊ブログの映画評スタンスとして「映画は単体として価値を持つべきだ」ってのは繰り返し言ってますしね。…というのは建前、このクソ映画にこれ以上金落としたくなかったからっす!原作が高瀬舟級の名作だとしたらごめんね!これから貶すよ!
大きく分けて「リアリティなさ過ぎ」「伏線下手過ぎ=ご都合主義」の2点を時系列を追いつつ突っ込んで行きます。
②ウィザード級スーパーハカー(笑)
ドクターデスは自サイトを運営し、その掲示板で依頼された嘱託殺人を請け負っています。………え、頭大丈夫!!??
「デスノート」みたく、報道や有志の投稿を犯人が自分の匿名性を保ったまま利用するとか、昨年の映画「見えない目撃者」みたく、SNS時代にあってアナログゆえ却って捜査し辛い口コミ伝達じゃないんですよ。「嘱託殺人俺んところ来ィ!」って堂々宣言したサイトを運営し続けてる。こんなトンチキ野郎を国家権力が摘発出来ないってありえますかね????
一応原作では、「海外のサーバを複数経由しリアルタイムでログが改ざんされるから追跡不可能」という理屈が付くとのこと(これはこれで、「たかが一市民が警察を凌ぐハカー(笑)ってありうるの?」って疑問が湧きますが)。なら、映画でもワンロジック入れようよ!何でサイト経由の捜査ではなく「遺族を当たって行け!」と論理が飛躍すんの??・
③似顔絵捜査
捜査一課は掲示板のコメントから被害者(尊厳死依頼)家族を5件割り出し、取り調べを開始。そこで証言からモンタージュを作成していくのだが…。はい、ツッコミポイント来たよ!依頼と連絡の経緯を辿るのが先だよね?
現実の事件を引き合いに出すのは不謹慎ですが、今年、とある嘱託殺人の報道がありましたよね。あの事件では患者と医師がSNS上でやり取りをし、具体的な内容を詰める段階では一定時間が経過するとログが消えるアプリを使って証拠隠滅をしたと聞いています。
ならさ、ドクターデスと顧客はどうやり取りしたのさ?顧客はオープンな掲示板に住所氏名電話番号素性いきなり書いちゃう系の人?で、ドクターデスもある日突然「こんちゃーす」って自宅訪問すんの?そんなわけないじゃん。時系列順に足取りがつかめたら、聞き込みをしたり、直近の監視カメラの映像追えるでしょ?車移動なら車種やナンバー、電車移動なら生活圏を把捉できるじゃん?
なのに何であやふやな記憶頼り、おまけに似顔絵係の先入観にも左右されるモンタージュ手法に辿り着くわけ?最終的にこれになったなら分かるよ、でも少なくとも「他はダメでモンタージュしかない」ってロジックの道筋付けてよ?警察そこまでバカじゃないよ!!
④共犯
似顔絵捜査は、遺族らがドクターデスを庇うため嘘を付きバラバラのモンタージュ像となったため頓挫した。そのため捜査一課は患者が死の間際に遺したビデオメッセージを分析し、医師の隣にいる看護師の顔を割り出した。捜査の結果、彼女は元看護師の雛森めぐみと判明。取り調べると、自分はネットの診療補助アルバイトに誘われただけだ、と言うのだが…。
で、ここでまた疑問。共犯、要るか?荷物は麻酔と毒物のアンプル、注射器、撮影用のデジカメだけだから、一人で十分だよね?注射してる画を撮りたいなら居合わせる顧客に頼めばいいだけだし。安楽死という闇稼業の片棒を、パンピーに担がせるメリットなくね?…って普通思いますよね。
案の定というべきか、雛森めぐみはパンピーじゃなかったんです。その後の捜査で元介護福祉士のホームレス、寺町という男が逮捕されるが、彼はドクターデスではなかった。白衣の初老男性とナースキャップの女性の2人連れなら、当然男が医者側だと思うが彼こそが補助役。主犯と従犯が実は逆という、見事なミスリードだったんですね…!………見事か、これ?
雛森こそがドクターデス、良しとしよう。じゃあ今度は、何でコイツは寺町を雇ったの?捜査の攪乱のため?でもそれって、寺町経由で犯行が露見するリスクに見合うもんなの?この展開、原作からしてそうらしいのよね。中山七里って人は「どんでん返しの帝王」と評されている。でもさ、「読者、観客を驚かせるトリック」が、「犯人が悪事を成功・持続させるためのギミック」であることには繋がらないよね。
禁句言って良いっすか?もしかして原作からしてポンコツミステリーなのでは…?
⑤調達
別角度でのつっこみポイント挙げます。ドクターデスって、どうやって薬物と金の工面してるの?
劇中、ドクターデスは麻酔剤のチオペンタール、致死性薬物の塩化カリウムで安楽死を請け負っていると言われる。えっと…それってコストコやホームセンターで買えんの?通販だとしても、危険物は職業・所属証明求められるよね?元看護士、元介護福祉士とはいえ、35人を安楽死させる量を労なく手に入れられるのかな?
もう一つがお金。雛森は非正規、寺町はホームレスと明らかに経済的に不自由な生活をしている。それなのに、「完全無償」で安楽死稼業続けられるもんかな?原作では一応「一件20万をもらう」とあるから、非営利にせよ諸経費を賄える理由づけにはなる。一方映画版では薄給長時間激務の労働に就いているが、機材資材調達して下調べして寺町にバイト料払って、おまけに警察やマスコミをシャットアウト出来る驚異のサイトを運営出来るのかな?これファンタジー映画だっけ?
こここそ、共犯の使いどころだったんじゃないですかね。「模倣犯」みたく、実行犯とパトロンの関係にすれば良い。発案実行は雛森が賄い、寺町が調達と金工面を担う。そうすれば「共犯の必然性」「調達経路」の条件を満たせるじゃないですか。ミステリーのフリしてゼロロジックなのは勘弁してくれ。
⑥後出しジャンケン
一度は途絶えた似顔絵捜査で、寺町を割り出すところは正直悪くない。高千穂は元似顔絵係で「隠し事のある犯人は、証言の始めに嘘を付く」ことを知っていた。そのため、5枚バラバラのモンタージュを並べ、それぞれ証言の前半部分を除外。証言の後半部分を合成し、寺町の顔を浮かび上がらせていく。5枚の「嘘モンタージュ像」と完成品を見比べれば成程特徴が残っているし、視覚メディアたる映画ならではの表現でもある。たださ、この高千穂の設定が後出しなのよ。
折角犬養・高千穂コンビが取り調べるシーンがあるのだから、そこで高千穂が相手のウソを見破るシーン入れればいいじゃん。その場では「刑事の(女の)勘です」と冗談めかしておいて、今度は真実を語れば「成程そういう理屈だったのか」と後から分かる。
もう一つが、寺町の住居割り出しシーンね。被害者宅のドアマットに残された藻が決め手になったってあるんだけど…それ、何気ないシーンで先に出そっか。あるシーンでは犬養が無造作にマットを踏むシーンを入れ、足繁く被害者宅に通う内、遂には踏み出そうとした足を止めマットに屈みこむ。そしたら伏線になるじゃん!
その癖、無駄なシーンが多すぎんだよ!冒頭でのクソダサい刑事ドラマ風OP、高千穂が飲み屋で突然「私のぼんじり~!」と絶叫するコミカルシーン、無駄に人数が多い上に過剰な演技が粗目立ちする捜査一課のメンツたち…。冗長なシーンを入れても良いけど、先ずはミステリーとして成立させて♡
⑦評価点:改変その1
それでも、評価できる部分はあるんですよ。それが(レビュー観る感じ原作ファンは発狂していますが)原作から改変したところ。「物語後半」「作品テーマ」の2点を挙げていきます。
先ずは物語後半の展開。原作では、雛森=ドクターデスは「人道的理由」から尊厳死連続殺人を続けていたことが明らかになります。雛森というキャラ設定は、ぶっちゃけ「ブラックジャック」のドクターキリコのパクリです。彼女は戦場で、致命傷を負い痛苦に悶える患者を多く見ます。そんな彼らに先輩医師は慈悲として安楽死を施し、患者は死の瞬間に感謝の言葉を述べる。そこから彼女は「生きる権利と共に、死ぬ権利が人にはある」と気づき、帰国後に同じ稼業を始めた。刑事犬養は職業人としては反発しつつも、腎不全の娘を持つ身としてどうしても共感してしまい、遂には(止むを得ない状況下ながら)安楽死を見逃す選択をしてしまう。こっちは「オリエント急行殺人事件」のポアロのパクリですね。人として間違っていると分かっているのに、俺は加担してしまった…と忸怩たる思いを残して物語が終わる。その後悔こそがタイトルにある「ドクターデスの『遺産』」なんです。
それでは映画はどうか。雛森を追う犬養に対し、雛森の側が犬養の娘に医者のフリをして病院にて接触。「あなたはお父さんの負担なの。それにドナー提供を待つのは誰かの死を願うこと。あなた、そうまでして生きたいの?」と精神攻撃を仕掛け、自分からドクターデスのサイトに書き込むよう仕向けます。
これ、多分デビット・フィンチャー監督の『Se7en』のオマージュなんですわ。猟奇殺人鬼を追う刑事が、実は殺人鬼から執着を持たれ追い詰められる…このプロットしかり、刑事本人ではなく最愛の者を死に追い詰め心を削る展開しかり。優しげにしかし淡々と言葉責めにする演技もそっくりですよ。
先に上げた「見えない目撃者」が『羊たちの沈黙』のコッテコテのオマージュシーンを入れてたように、最近のサスペンス邦画はこういう路線が流行りなんですかね?あざといながらも映画小ネタ入れられると…キモオタとしては弱いっす(自分語り)。
⑧改変その2:作品テーマ
原作ラストの紹介から分かる通り、小説版は尊厳死、生きる意味を問う非常に重たい雰囲気の作品らしいです。一方、映画では雛森をサイコパスキャラに振り切っている。おまけに、とあるシーンで「(遺族・患者当人も納得づくなのだから)この事件に被害者って居るんですかね…」と自問する高千穂に対し、犬養は「俺たちは犯罪者にワッパかけるのが仕事だ」と非常に割り切った返答をしている。正反対の思想なんですね。
でも、個人的にこの方向性は映画的に正しいと思います。理由は「大作社会派(笑)ミステリーの悪癖」「時勢を鑑みて」の2点。
先ず一つ目、社会派(笑)ミステリー映画について。具体的に言えば東野〇〇原作映画ですね。個人の妄言なので真に受けないで欲しいんですけど、「〇〇の眠る家」とか「〇える刃」とか「容疑者〇の献身」とか、あの辺りの映画って人物描写がやたらウェットでドラマ部分が鈍重なうえ、(映画内においては)テーマの扱いが実は浅はかで。とにかく退屈なんですよ(個人の感想です)。
一方、今作は「尊厳死テーマ」は早々に片隅に追いやられ、サイコパス殺人鬼を刑事が追うバディムービーに舵を振り切っている。ライトなエンタメ路線で差別化を図っているのは、僕は評価したいです。
もう一つが、実例として挙げたあの事件ですね。現実に嘱託事件がつい最近起きたのに、「刑事が安楽死を見て見ぬふりをする」映画って出せないですよね。ここから僕の想像なんですが、この映画って実は完成直前まで原作通りだったんじゃないのかな…?それがあの報道を受け、急遽路線変更。急ピッチで後半部分を撮り直したから、こんな出来の映画になった…とか。
⑨結びに
原作ファン発狂の改変パートを、僕は支持します。映画をエンタメとして成立させるために必要だったからね!でもさ、そうまでして、これほど詰まらない映画だっていうのは…深川監督がとんでもなく下手クソだってことだよね。フィルムグラフィー見る感じ、おセンチな映画は得意みたい。でも、ミステリーはもう止めた方が良いんじゃねーかな。
貶し貶して5千字評でした。今年も色々酷評してきたけど、コイツァ格が違ェわ!韓国が「暗数殺人」を出してる隣で、大作社会派邦画がこれとか「AI崩壊」なんだからどうしようもねえな!
少年の母親を取り調べたところ、「尊厳死を請け負う闇医者、ドクターデスに依頼した」と証言する。ドクターデスのサイトを調べる捜査一課…そこで判明したのはドクターデスは何件もの依頼をこなしていたこと。事件は氷山のほんの一角に過ぎなかった…。
①作品概要と前置き
原作『ドクターデスの遺産』は中山七里の『刑事犬養隼人』シリーズの第4作目。ドラマ化もされた人気シリーズが、今回遂に映画化されました。
私個人は原作未読で、ネタバレサイトで粗筋をかじった程度…なんですが評を始めていきます。弊ブログの映画評スタンスとして「映画は単体として価値を持つべきだ」ってのは繰り返し言ってますしね。…というのは建前、このクソ映画にこれ以上金落としたくなかったからっす!原作が高瀬舟級の名作だとしたらごめんね!これから貶すよ!
大きく分けて「リアリティなさ過ぎ」「伏線下手過ぎ=ご都合主義」の2点を時系列を追いつつ突っ込んで行きます。
②ウィザード級スーパーハカー(笑)
ドクターデスは自サイトを運営し、その掲示板で依頼された嘱託殺人を請け負っています。………え、頭大丈夫!!??
「デスノート」みたく、報道や有志の投稿を犯人が自分の匿名性を保ったまま利用するとか、昨年の映画「見えない目撃者」みたく、SNS時代にあってアナログゆえ却って捜査し辛い口コミ伝達じゃないんですよ。「嘱託殺人俺んところ来ィ!」って堂々宣言したサイトを運営し続けてる。こんなトンチキ野郎を国家権力が摘発出来ないってありえますかね????
一応原作では、「海外のサーバを複数経由しリアルタイムでログが改ざんされるから追跡不可能」という理屈が付くとのこと(これはこれで、「たかが一市民が警察を凌ぐハカー(笑)ってありうるの?」って疑問が湧きますが)。なら、映画でもワンロジック入れようよ!何でサイト経由の捜査ではなく「遺族を当たって行け!」と論理が飛躍すんの??・
③似顔絵捜査
捜査一課は掲示板のコメントから被害者(尊厳死依頼)家族を5件割り出し、取り調べを開始。そこで証言からモンタージュを作成していくのだが…。はい、ツッコミポイント来たよ!依頼と連絡の経緯を辿るのが先だよね?
現実の事件を引き合いに出すのは不謹慎ですが、今年、とある嘱託殺人の報道がありましたよね。あの事件では患者と医師がSNS上でやり取りをし、具体的な内容を詰める段階では一定時間が経過するとログが消えるアプリを使って証拠隠滅をしたと聞いています。
ならさ、ドクターデスと顧客はどうやり取りしたのさ?顧客はオープンな掲示板に住所氏名電話番号素性いきなり書いちゃう系の人?で、ドクターデスもある日突然「こんちゃーす」って自宅訪問すんの?そんなわけないじゃん。時系列順に足取りがつかめたら、聞き込みをしたり、直近の監視カメラの映像追えるでしょ?車移動なら車種やナンバー、電車移動なら生活圏を把捉できるじゃん?
なのに何であやふやな記憶頼り、おまけに似顔絵係の先入観にも左右されるモンタージュ手法に辿り着くわけ?最終的にこれになったなら分かるよ、でも少なくとも「他はダメでモンタージュしかない」ってロジックの道筋付けてよ?警察そこまでバカじゃないよ!!
④共犯
似顔絵捜査は、遺族らがドクターデスを庇うため嘘を付きバラバラのモンタージュ像となったため頓挫した。そのため捜査一課は患者が死の間際に遺したビデオメッセージを分析し、医師の隣にいる看護師の顔を割り出した。捜査の結果、彼女は元看護師の雛森めぐみと判明。取り調べると、自分はネットの診療補助アルバイトに誘われただけだ、と言うのだが…。
で、ここでまた疑問。共犯、要るか?荷物は麻酔と毒物のアンプル、注射器、撮影用のデジカメだけだから、一人で十分だよね?注射してる画を撮りたいなら居合わせる顧客に頼めばいいだけだし。安楽死という闇稼業の片棒を、パンピーに担がせるメリットなくね?…って普通思いますよね。
案の定というべきか、雛森めぐみはパンピーじゃなかったんです。その後の捜査で元介護福祉士のホームレス、寺町という男が逮捕されるが、彼はドクターデスではなかった。白衣の初老男性とナースキャップの女性の2人連れなら、当然男が医者側だと思うが彼こそが補助役。主犯と従犯が実は逆という、見事なミスリードだったんですね…!………見事か、これ?
雛森こそがドクターデス、良しとしよう。じゃあ今度は、何でコイツは寺町を雇ったの?捜査の攪乱のため?でもそれって、寺町経由で犯行が露見するリスクに見合うもんなの?この展開、原作からしてそうらしいのよね。中山七里って人は「どんでん返しの帝王」と評されている。でもさ、「読者、観客を驚かせるトリック」が、「犯人が悪事を成功・持続させるためのギミック」であることには繋がらないよね。
禁句言って良いっすか?もしかして原作からしてポンコツミステリーなのでは…?
⑤調達
別角度でのつっこみポイント挙げます。ドクターデスって、どうやって薬物と金の工面してるの?
劇中、ドクターデスは麻酔剤のチオペンタール、致死性薬物の塩化カリウムで安楽死を請け負っていると言われる。えっと…それってコストコやホームセンターで買えんの?通販だとしても、危険物は職業・所属証明求められるよね?元看護士、元介護福祉士とはいえ、35人を安楽死させる量を労なく手に入れられるのかな?
もう一つがお金。雛森は非正規、寺町はホームレスと明らかに経済的に不自由な生活をしている。それなのに、「完全無償」で安楽死稼業続けられるもんかな?原作では一応「一件20万をもらう」とあるから、非営利にせよ諸経費を賄える理由づけにはなる。一方映画版では薄給長時間激務の労働に就いているが、機材資材調達して下調べして寺町にバイト料払って、おまけに警察やマスコミをシャットアウト出来る驚異のサイトを運営出来るのかな?これファンタジー映画だっけ?
こここそ、共犯の使いどころだったんじゃないですかね。「模倣犯」みたく、実行犯とパトロンの関係にすれば良い。発案実行は雛森が賄い、寺町が調達と金工面を担う。そうすれば「共犯の必然性」「調達経路」の条件を満たせるじゃないですか。ミステリーのフリしてゼロロジックなのは勘弁してくれ。
⑥後出しジャンケン
一度は途絶えた似顔絵捜査で、寺町を割り出すところは正直悪くない。高千穂は元似顔絵係で「隠し事のある犯人は、証言の始めに嘘を付く」ことを知っていた。そのため、5枚バラバラのモンタージュを並べ、それぞれ証言の前半部分を除外。証言の後半部分を合成し、寺町の顔を浮かび上がらせていく。5枚の「嘘モンタージュ像」と完成品を見比べれば成程特徴が残っているし、視覚メディアたる映画ならではの表現でもある。たださ、この高千穂の設定が後出しなのよ。
折角犬養・高千穂コンビが取り調べるシーンがあるのだから、そこで高千穂が相手のウソを見破るシーン入れればいいじゃん。その場では「刑事の(女の)勘です」と冗談めかしておいて、今度は真実を語れば「成程そういう理屈だったのか」と後から分かる。
もう一つが、寺町の住居割り出しシーンね。被害者宅のドアマットに残された藻が決め手になったってあるんだけど…それ、何気ないシーンで先に出そっか。あるシーンでは犬養が無造作にマットを踏むシーンを入れ、足繁く被害者宅に通う内、遂には踏み出そうとした足を止めマットに屈みこむ。そしたら伏線になるじゃん!
その癖、無駄なシーンが多すぎんだよ!冒頭でのクソダサい刑事ドラマ風OP、高千穂が飲み屋で突然「私のぼんじり~!」と絶叫するコミカルシーン、無駄に人数が多い上に過剰な演技が粗目立ちする捜査一課のメンツたち…。冗長なシーンを入れても良いけど、先ずはミステリーとして成立させて♡
⑦評価点:改変その1
それでも、評価できる部分はあるんですよ。それが(レビュー観る感じ原作ファンは発狂していますが)原作から改変したところ。「物語後半」「作品テーマ」の2点を挙げていきます。
先ずは物語後半の展開。原作では、雛森=ドクターデスは「人道的理由」から尊厳死連続殺人を続けていたことが明らかになります。雛森というキャラ設定は、ぶっちゃけ「ブラックジャック」のドクターキリコのパクリです。彼女は戦場で、致命傷を負い痛苦に悶える患者を多く見ます。そんな彼らに先輩医師は慈悲として安楽死を施し、患者は死の瞬間に感謝の言葉を述べる。そこから彼女は「生きる権利と共に、死ぬ権利が人にはある」と気づき、帰国後に同じ稼業を始めた。刑事犬養は職業人としては反発しつつも、腎不全の娘を持つ身としてどうしても共感してしまい、遂には(止むを得ない状況下ながら)安楽死を見逃す選択をしてしまう。こっちは「オリエント急行殺人事件」のポアロのパクリですね。人として間違っていると分かっているのに、俺は加担してしまった…と忸怩たる思いを残して物語が終わる。その後悔こそがタイトルにある「ドクターデスの『遺産』」なんです。
それでは映画はどうか。雛森を追う犬養に対し、雛森の側が犬養の娘に医者のフリをして病院にて接触。「あなたはお父さんの負担なの。それにドナー提供を待つのは誰かの死を願うこと。あなた、そうまでして生きたいの?」と精神攻撃を仕掛け、自分からドクターデスのサイトに書き込むよう仕向けます。
これ、多分デビット・フィンチャー監督の『Se7en』のオマージュなんですわ。猟奇殺人鬼を追う刑事が、実は殺人鬼から執着を持たれ追い詰められる…このプロットしかり、刑事本人ではなく最愛の者を死に追い詰め心を削る展開しかり。優しげにしかし淡々と言葉責めにする演技もそっくりですよ。
先に上げた「見えない目撃者」が『羊たちの沈黙』のコッテコテのオマージュシーンを入れてたように、最近のサスペンス邦画はこういう路線が流行りなんですかね?あざといながらも映画小ネタ入れられると…キモオタとしては弱いっす(自分語り)。
⑧改変その2:作品テーマ
原作ラストの紹介から分かる通り、小説版は尊厳死、生きる意味を問う非常に重たい雰囲気の作品らしいです。一方、映画では雛森をサイコパスキャラに振り切っている。おまけに、とあるシーンで「(遺族・患者当人も納得づくなのだから)この事件に被害者って居るんですかね…」と自問する高千穂に対し、犬養は「俺たちは犯罪者にワッパかけるのが仕事だ」と非常に割り切った返答をしている。正反対の思想なんですね。
でも、個人的にこの方向性は映画的に正しいと思います。理由は「大作社会派(笑)ミステリーの悪癖」「時勢を鑑みて」の2点。
先ず一つ目、社会派(笑)ミステリー映画について。具体的に言えば東野〇〇原作映画ですね。個人の妄言なので真に受けないで欲しいんですけど、「〇〇の眠る家」とか「〇える刃」とか「容疑者〇の献身」とか、あの辺りの映画って人物描写がやたらウェットでドラマ部分が鈍重なうえ、(映画内においては)テーマの扱いが実は浅はかで。とにかく退屈なんですよ(個人の感想です)。
一方、今作は「尊厳死テーマ」は早々に片隅に追いやられ、サイコパス殺人鬼を刑事が追うバディムービーに舵を振り切っている。ライトなエンタメ路線で差別化を図っているのは、僕は評価したいです。
もう一つが、実例として挙げたあの事件ですね。現実に嘱託事件がつい最近起きたのに、「刑事が安楽死を見て見ぬふりをする」映画って出せないですよね。ここから僕の想像なんですが、この映画って実は完成直前まで原作通りだったんじゃないのかな…?それがあの報道を受け、急遽路線変更。急ピッチで後半部分を撮り直したから、こんな出来の映画になった…とか。
⑨結びに
原作ファン発狂の改変パートを、僕は支持します。映画をエンタメとして成立させるために必要だったからね!でもさ、そうまでして、これほど詰まらない映画だっていうのは…深川監督がとんでもなく下手クソだってことだよね。フィルムグラフィー見る感じ、おセンチな映画は得意みたい。でも、ミステリーはもう止めた方が良いんじゃねーかな。
貶し貶して5千字評でした。今年も色々酷評してきたけど、コイツァ格が違ェわ!韓国が「暗数殺人」を出してる隣で、大作社会派邦画がこれとか「AI崩壊」なんだからどうしようもねえな!
コメント
ボロボロに貶しててかつ元の映画も知らないのに面白く読めるのは、文章がとても上手だからなのか、はたまた映画愛にあふれてるからなのか。
一周回ってこの映画を見たくなってきました。
クソ映画もクソ映画ならではの楽しみ方はあるので、そういうのが伝わったのなら幸いです。