脳が腐る稚拙難解ホラー『樹海村』を大いにこき下ろす
粗筋 天沢鳴と妹の響、鳴の恋人の鷲尾真二郎、新婚の阿久津輝と美優は幼馴染の5人組。輝・美優の新居地階から発見された謎の箱によって、一人づつ怪事に見舞われていく。ネットの噂では「コトリバコ」と称されるそれは、樹海巡視員出口の言によると『棄民され樹海で寄り集まった者たちが生み出した呪具』とのこと。
 一人残った響は呪いを森に返すため、箱を伴い富士樹海へと分け入っていく…。


 酷評はストーリーを追いがてらツッコミを入れるスタイルが常なんだけど、今回は要素ごとのあげつらいになります。だって粗筋追っていっても脈絡が繋がらねえんだもん!気になったそこのキミ!ロングラン公開しているので自分の目で確かめに逝け!!


①演出で場面を繋げない
 ワンカットものを除き、映画はカットで場面を跨ぎます。そのため、台詞の流れなり、視覚的演出で承前するものです。ところが今作にはそれがない。例を上げましょう。

 前半、阿久津美優が呪いによって流産に見舞われます。ここに必要なのは「妊
娠している事実」「事故or体調急変」の2つですよね?引っ越し先の本棚に妊婦ハウツー本や姓名判断の本を並べたり、ベビーベッドを置けば妊婦と分かる。そしてその後に腹部レントゲンや手術台横の掻把器具を映せば、間接的に流産も示せる。
 ところが今作は一味違う。妊娠は引っ越し段ボールの「オムツ」の文字と「お母さんになるんだから」の台詞、流産に至っては響が赤ん坊の幻聴を聞く→「美優さんが…」と呟く→病院ベッドに横たわる美優→泣き崩れる輝…の流れで示される。???
 先ず、美優役の女優がモデル体型な以上、妊娠初期にしか見えない(=オムツが不必要な時期のため、妊娠を示すアイテムとして不適)。
 加え、事故に遭うor突然お腹を抱えてしゃがむなどの妊婦への危険を匂わす演出が一切ないため、これが流産に限定した描写とはとても思えない。

 もう一つ例を挙げます。響がファンだった霊能youtuberが配信中に失踪。それを受け視聴者がskype部屋を立てて話し合う。そこで上述した幻聴を聞く場面があるんですが、そこから数分後、突然樹海凸オフ会に場面が飛ぶんですね。???
 前のskypeシーンでOFF会を開く旨を雑談の中に紛れ込ませたり、或いはチャット欄に「来週9時に青木ヶ原入り口集合!」の文字と共に地図URLが添付された画面を映したりがない。

 一事が万事この調子で、起承転結の「承」「転」が抜けたエピソードが連続する。そのために登場人物が突然ワープするか意識が飛んでるようにしか見えないんすよ!!


②霊能力設定
 同時期に公開された『さんかく窓の外は夜』しかり、霊能力の設定がふわっとし過ぎです。
 のっけから響はメンヘラ不思議ガール(パンフ曰くシャーマン体質)として示されるため、「ああこの子は霊能者なのか」と観客は思う。ところが、中盤で主役が鳴にチェンジした途端、彼女も突然霊的感応力を示し始める。
 加え、霊能力で出来ること何の理由づけもないまま広がり出す。始めは呪物察知、霊視だけだった筈が、中盤では姉妹間のテレパシーに。ラストバトルに至っては異界に思念体飛ばしますからね。『ヴァンパイアハンターD』かな?
 

③怪奇:リアリティーレベル
 コトリバコが起こす事態がどんどん物理攻撃・範囲攻撃になっていきます。発端部では事故死誘発や幻覚・幻聴だったものが、中盤以降では自殺精神攻撃へ。ラストバトルに至っては『ベルセルク』の蝕空間→口寄せ・穢土転生→木遁口寄せ・樹海人間を発動する始末。

 一介のホラーファンとしてはね、怪奇インフレ即駄作とは言いませんよ。でも、映像的な理屈づけが欲しい。怪奇そのもの以外の描写で、事態が進行していると示せば納得出来るんですよ。
 皆大好き『ハムナプトラ』では、悪魔イムホテップは犠牲者の肉体を奪う度パワーアップしていく。そのため復活直後は乾燥しきったミイラだった体も皮膚をまとい肉をつけ、最終的には完全な姿となる。
 或いは、実話系怪談ではどうか。天井の染みが夜ごと大きくなり、遂には真っ黒に腐食した天井板から黒髪の女がずり下がる…ってのはお決まりのパターンです。

 かようにして、コトリバコがパワーアップしているという描写を何故採れなかったのか。(原作の2chコピペに倣うなら)初お目見えの時は両手に乗るくらいの、綺麗な寄木細工にすれば良いんですよ。それなら、響だけはそれに嫌悪感を抱くにせよ、周り4人は寧ろ気に入るベタな展開が作れる(美優が「可愛いからインテリアにしよ~」と持ち帰ったりすれば、彼女が最初の犠牲者になる理由づけにもなる)。
 それが、犠牲者が一人つづ出るたび、徐々に変貌すれば良いんですよ。赤くどす黒く変色し、隆起し模様が浮かんで、大きさも増していく。ビジュアルで反復と変化を示せれば、怪奇現象の亢進も吞み込めた筈なのに。


④怪奇:物語の推進力
『犬鳴村』の時も言ったんすけど↓
https://magiclazy.diarynote.jp/202102061759561963/
超常系ホラー映画で物語の推進力を複数設けるの止めません?
 何でこの5人組は呪われてるんですかね?樹海の近く(車で数分程度の距離)に住んでいるからなのか?コトリバコを見つけたからなのか?鳴・響が10年前に樹海に入ったからなのか?姉妹の母親、琴音が原因なのか?一つに絞れや!
 設定がいい加減なせいで因果関係が理に落ちない。因果関係が見えてこない以上解呪方法も見えて来ず、異変に気付いて以降の行動にも物語上の意味が生まれえない。


⑤物語の推進力:無駄な人数の多さ
 物語の推進力に関わる部分ですが、人間関係が錯綜し過ぎです。見やすく簡略化しましょう。
 5人組にそれぞれ家族があり、樹海巡視員出口が関わり、響には心霊youtuber番組の繋がりがあり…と、メインキャストだけで30人近く居ます。そらお話が取っ散らかるに決まってるわな!群像劇を捌く技量がないなら減らせ!主人公一行5人に地元の物知り爺、後は霊能者一人の計7人で話回るから!


⑥伏線にすらなっていない
 ぼかぁ後付け説明映画って死ぬほど嫌いなんですけど、 
https://magiclazy.diarynote.jp/202002282300477629/
少なくとも「前半部で抱いた謎・違和感を解消する」機能は果たせるじゃないですか。ところが本作、謎の自転車操業が起きるんですね。いやーこれには参った!

 例えばこんな場面。真二郎の寺に放火した罪で響は逮捕。統合失調症として精神病院送りになるんですが、後々コトリバコを消滅させようと火を点けたことが明らかになります。これ、冷静に考えればおかしくて。
 前半部では「呪いで精神に異常を来たす」ことが示されているワケだから、当然観客は「響も狂ったんだなあ…」と思う筈。ところが後で「響は正気だった」と示される。なら今度は「何で寺に火を放ったの?」って疑問が湧きますよね?
 「寺に呪いが広がり切ったので、全部を灰にすべきだった」とか、「火でないと滅せない」とかロジックがないと、殺人に次ぐ重罪をするだけの理由づけにならないじゃないですか?

 或いは天沢家の過去にまつわる話。姉妹は13年前、自分たちを連れ樹海で無理心中を図ろうとした母、琴音に複雑な感情を抱いていますが、実は「コトリバコを樹海に戻すための決死行だった」と明かされる。
 ならさぁ!!何で4,5歳のガキ2人連れで草深い林野に分け入るんですか???二人に憑いた穢れを祓う儀式を道々行ったとか、肯定できるロジックあります?


⑦褒めポイント
 『犬鳴村』が何ひとつ褒めようのないクズ映画だったのに比べ、今作は好意的に観れる部分もあります。先ずはホラージャンルの小ネタを仕込んでいるところ。
 パンフにある通り、主役が物語の中途で入れ替わるのはヒッチコックの『サイコ』。冒頭での「若い男女が森の一軒家で呪いのアイテムを見つける」展開は、もろに『死霊のはらわた』でしょう。
 マニアックなところでは、後半の樹海結界・蝕での枝木の影絵+樹木人間描写。あれは恐らく、黒澤清監督のホラードラマ『木霊』のオマージュですね。黒澤清は今作の監督、清水崇の師匠に当たる方です。
 
 他には、樹木人間の出るシーンでは特殊メイクとCGをシームレスに連動させた画になっていて(メジャー邦画にしては)見ごたえがあった。『犬鳴村』の「ぼろ布はっつけたエキストラの皆さん」っぽさは無くなっていて進歩!


⑧結びに
 何故『樹海村』はクソなのか。『ラビットホラー3D』辺りからグラン・ギニョルっぽさを取り入れ始めた清水崇監督が悪いのか。『貞子3D2』『妖怪人間ベラ』などクソ映画常連の主脚本、保坂氏が悪いのか。いや、戦犯は他に居た!!
 企画の上の方達です。本作、まっさらの企画立ち上げから公開までに、おおよそ10か月くらいなんだそうです。低予算映画なら兎も角、こんな地獄の突貫工事でまともな作品が出来るワケないじゃないですか。

「あ、清水ちャ~ん?ナキイヌ評判良いみたいじゃな~い?それでさ、また新しいホラー作ってよ。今度はさ、ノベライズと一緒にコミカライズも事前に転がしておいてさ。年明けからテレビとシネコンで予告もバンバン打って!公開直前にはナキイヌも派手に地上波で放送してさ。
 え、公開時期?そんなん来年2月で良いっしょ!予算もバーンと増やすし面接もリモートでちゃちゃっと済むじゃんwwそれじゃリスケよろぴく!」


って感じの、ハラワタの腐った電通マインドがビンビンに伝わるんですよ!(個人の感想です)

 ともあれ、今作の興収も東宝&電通のマーケティング戦略のおかげで上々。本筋に一切絡まない『犬鳴村』のガキ&youtuberを出しているように、「村シリーズ」として恒例化(ひょっとしたらユニバース化?)まで目論んでいるのでしょうか。5年後あたりでは『犬鳴村VS樹海村VS原発村』なんて出てたりして…。

 そんなんだから、Jホラーは死んだんだよ。






 はい、5千字評でした。
 電通名言「偏差値40にも理解できるものが『普通』だ」を思い出す、偏差値20の僕には理解の及ばない映画でした。

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