万人にはお勧め出来ないが…大好きな不条理映画『オールド』を語る
粗筋 優雅なリゾートに滞在する、複数の家族。彼らは支配人から特別な招待を受け、奥地にあるプライベートビーチへと赴く。だが、女性の死体が打ち上げられたことから、狂騒が始まる。岩に囲まれたこの浜辺では、約2万倍の速度で人間は老化していく…。


①作品概説
 原作はグラフィックノベルの『SAND CASTLE』。監督は『シックス・センス』を始め、ホラーやスリラー作品を30年撮り続けてきたM・ナイト・シャマラン。…そう、万人受けしない映画で有名な、あのシャマランです。
 支持する層(通称シャマラニスト)は熱狂的に擁護する一方、嫌いな方々には激烈に非難されるのがシャマラン映画の常。今作も御多分に盛れず、IMDBやRotten Tomatoesなどのレビューサイトでも評価の点数がパックリ2分されています。
 不支持派の意見は確かに分かる。分かるがそれでも、シャマラニストとしてこの映画は褒めたい。この映画の(変な)見所を、これから語って行きます。


②老化現象:(ザ・グレイトフル・デッド+メイド・イン・ヘヴン)/2
 老人に生まれ赤子として死ぬ『ベンジャミンバトン』、寿命を資金として貯蔵・運用できる『タイム』など、老化を扱った映画は数あります。そんな中で今作の面白さは、「超高速の老化」「体の変化に思考や判断が追い付かない」の2点にあるでしょう。
 
 暫時目を離した子供が、青少年と呼べる姿で戻って来る。表皮の切り傷は、瞬く間に修復していく。大人たちが口論する間に、テントでじゃれ合っていた少年少女は睦んでしまい、孕んでしまう。瞬く間に出産するが、嬰児は数瞬で息絶える。

 とりわけ常軌を逸したものは、腹部に出来た腫瘍を取り出すシーンですね。3センチ大だと診断されていた腫瘍も、時間の進み方が違うこのビーチでは異常な速度で膨らんでいく。外科医と看護師の二人で緊急摘出術を図るも、メスで切開した先から体組織は瞬間的に癒合する始末。
 そのためメスで裂いた後に指を鉗子代わりにこじ開け続け、腹腔より林檎サイズの肉塊をもりもり引きずり出す…。いやー、正視に堪えない(誉め言葉)!
 

③撮影監督、マイケル・ジオラキス
 画面のイヤさを演出してくれるのは、マイケル・ジオラキス。『スプリット』以降のシャマラン映画全てを担当するほか、『イット・フォローズ』『Us』などのホラー・スリラー有名作を撮影しています。
 今作でもその手腕を発揮。成長してしまった姉弟の顔は直ぐに映さず、背中越しにゆっくりカメラを動かし長丁場の画を作る。あっと言う間に腐敗・分解された死体を見せる際は「肋骨の内側」から周りの人を眺める視点に留める。全員がヒステリーに陥った際は、カメラが砂浜を「うろうろ…うろうろ…」と小走りペースで駆け回り、各人のリアクションを映していく。
 今作はシャマラン映画の中では「気まずい会話」シーンが比較的少ない為、映像でイヤさを際立たせています。


④高速老化が象徴するもの
 シャマランは今作に影響を与えたものとして、ルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』を挙げています。どちらの作品も、閉鎖空間に置かれた一行が「どういう訳か」出られなくなる物語です。
 今作においても、ビーチからの脱出は失敗し続けます。行きに通った道を戻ると、気絶して浜辺で目覚める。海から海岸伝いに泳げば、溺死する。崖を登れば、滑落する。全身を布で覆っても、全身の骨が折れて死ぬ。何をしても助からない。
 私はこのビーチが象徴するものは、人生そのものだと考えています。老いや果てに待ち構える死は、どうあがいても避けられない。

 では、人生には絶望しか残されていないのだろうか?シャマランはその問いに、否と応える。
 主人公夫妻にも、老いは忍び寄る。夫のガイは老眼、妻のプリスカは難聴が進んでいく。朝=壮年時代はあれほど互いに気後れと怒りをぶつけ合っていた二人も、夜=晩年には、穏やかな気持ちで死を迎え入れる。鮮烈だった心の痛みも、次第に穏やかなものとなり、やがては忘れ去る。ほろ苦さも湛えながら、それでも肯定的な面を捉えられているのは、こういう映画↓
https://magiclazy.diarynote.jp/201912242358429869/
とは違いますね。


⑤シャマランの遍歴と作家性
 シャマラン映画には、一貫したテーマ性があります。それは「世界から疎外された・傷ついた者が、世界の真実・自身の役割を知る」というもの。これにはシャマラン自身の信念が投影されていると言われます。
 シャマランは極度の「出たがり監督」です。ほぼ全ての自作にチョイ役として出演し、DVDには子供・学生時代の短編作品を特典でくっ付ける。天狗になっていた頃の『レディインザウォーター』では、世界を変える天才作家の役をやり出す始末。とはいえ、その後いったんキャリアが低迷するワケですが…。

 シャマラニストとして今作『オールド』がひときわ感動的なのは、「世界を変える者は俺自身でなくても良い」という意識が見えるところ。映画において、主人公夫妻は死を迎えた。けれど子供たちの命を守ったことで、姉弟2人がビーチ≒世界を変えることに繋がった。
 若くしてスター監督となったシャマランも、知命の年に。今作には娘2人が或いは第二班監督、或いはミュージシャンとして参加しているとのこと。(縁故野郎と言ったら終いなんですが)『ヴィジット』以前は「天才俺ひとりVS世界」という意識だった彼が、後進を育てる視点を持ち始めたのは…泣けますね(シャマラニスト限定の感覚)。


⑥映画のオチ
 かように寓話的な装いで進んできた本作は、ラスト10分でぐっとリアルな着地をする。
 実はこのビーチ、製薬会社の極秘治験場だったのである。遅行性の病気は通常、長期にわたる治験で効果が証明されるものだ。ところがこのビーチは1日に50年が進むため、たった1日で新薬の効果が確かめるられる。そのため、医療データから新薬の対象となる持病持ちを招待し、実験に使っていた…と明かされる。
 脱出不可能に思われたビーチも、姉弟は内部関係者の情報からサンゴ礁が鍵になると割り出す。1日を経て50代になった二人は、職員に身バレすることなく警察関係者に接触。ビーチの存在を暴露し、犠牲者の仇を取ることに成功する…といった具合で話は終わる。

 シャマランは「ドンデン返しの人」と思われがちだが、飽くまでテーマ性を描く手段としてギミックを利用するのであって、そこが売りではない。本作も伏線はそつなく配置する割に、回収の段階はごくあっさりなため、肩透かしと思う人は多いかもしれない。


⑦結びに:弁明
 そりゃあね、粗はありますよ?真面目なSFとして観るなら、「時間加速原理って何?」「老化は兎も角、死体の腐敗まで早くなるの何で?」「金属で鉱物パワー防げる理由は?それがサンゴ礁で代替できるわけは?」「腫瘍って転移するのが厄介だから、林檎サイズになったら全身手遅れでしょ?」「排泄や摂取は早まらないの?」「死体が高速で腐るんだから、持ち込んだ飯も数秒で塵になるだろ」…とか、いっぱい疑問出ますよ!
 それに、寓話・イメージとして了解してきた話が、最後に突如リアリティレベルが上がる点もね。そりゃキレる人が出るのは分かる。

 それでもなお、スリラー作家としての巧みな設定・雰囲気作り、それにそぐわぬ切実で胸を打つテーマの提示…。シャマランにしか作れない映像世界なんですよ。細かい粗もガハハと許せる人、尖った映画が好きな人には、とてもお勧めな作品です。



 4千字評でした。シャマラン映画の言語化難しい。

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