【映画のお話し】死霊館2 エンフィールド事件と、ジェームズ・ワン監督について
【映画のお話し】死霊館2 エンフィールド事件と、ジェームズ・ワン監督について
【映画のお話し】死霊館2 エンフィールド事件と、ジェームズ・ワン監督について
※超、長文注意


①ジェームズ・ワン監督
 ワン監督と云えば、矢張り「SAW」抜きに語ることはできません。ほぼ無名だった氏とリー・ワネルの二人が僅か18日の撮影期間で撮ったSAWはサンダンス映画祭で激賞を受け、シリーズ化。シチュエーションスリラーのジャンルをスターダムに押し上げ、最も成功したホラーシリーズとしてギネス認定されるに至りました。
 転換点は07年の「デッドサイレンス」でしょうか。「あの人は実は…」というビックリ構造はSAWと同じですが、雰囲気は大きくホラーに舵を切り、近年はインシディアス3部作と死霊館三部作に見られるようにホラー監督としての地位を着々と築きつつあります。


②死霊館2 エンフィールド事件のあらすじ(及びネタバレ)
 超常現象研究家のウォーレン夫妻はアメリカ、アミティビルの悪魔の棲む家の調査を行うが、マスコミからペテン師呼ばわりされたことにショックを受け、悪魔祓いの仕事を休止。アミティビルで幻視した黒衣の悪魔の影に怯えながらも、平穏な日を過ごしていた。
 一方イギリス、ロンドン。母子家庭のホジソン一家が新居に越してきた。次女ジャネットがウィジャ盤(日本で云うコックリさん)を使い軽い気持ちで霊を呼んだ晩から、一家は怪奇現象に悩まされることになる。夢遊病、ラップ現象、果ては老人の霊がジャネットにとり憑くに及び、母親はマスコミに取材を依頼。その過程でウォーレン夫妻にも話が回り、エクソシストと悪魔憑きの一家が対面することになる。
 ジャネットに憑いた霊は自分をビルと名乗る。この家で過去に死に、家族に会うために戻ってきたのだ、と。怪奇現象に一家は怯えているのだが、ウォーレン夫妻は霊的存在を感知することが出来ない。終いには、彼女がダイニングで家具を投げている映像がカメラに映しだされる。悪魔祓いを行うためには超自然現象の認定が必要であり、力になれないとばかりにウォーレン夫妻は一家の許を去ってしまう。
 ジャネットを問い詰める家族。幽霊のビルが、そうしないとお前たちを殺すと脅した、と語る彼女。一方のウォーレン夫妻も違和感を覚えていた。何故ジャネットはカメラで撮られている部屋でそんなことをしたのか。ジャネット(憑依したビル)の録音テープを二重にして再生する二人。そこには幽霊を操る真の敵の存在が感じられた。その悪魔こそアミティビルで見た、シスターの姿をした悪魔だったのだ。急ぎホジソン家へ車を駆る夫妻。時同じくしてホジソン邸でも超常現象が吹き荒れる。果たして二人は悪魔の名を握り、悪魔祓いを完遂することが出来るのか…?


③エクソシスト映画、その醍醐味:信仰の揺らぎと「不道徳」
 エクソシスト映画の面白さとは何でしょうか。グロテスクなこと?キリスト教モチーフ?悪魔との問答?私が挙げるのは二つ、「信仰の揺らぎ」と「不道徳」です。

 エクソシスト映画でカルト的人気を誇る作品に共通して言えること、それは主人公の信仰上の葛藤です。
 「エクソシスト」の主人公の神父は、母の死によって信仰を失いかけていました。「エンドオブザデイズ」ではシュワちゃんは神か拳銃どちらかを選べと言われたら、俺は銃を選ぶとの名言を残しています。「ラストエクソシズム」の神父はミサや悪魔祓いを専らパフォーマンスと割り切り、「NY心霊捜査官」の相棒の神父は、一度信仰を捨てた人間でした。
  
 何故悪魔は恐ろしいのでしょう?スパイダーウォーク?緑のゲロ?首360度回転?それは表面的なことにすぎません。悪魔は人を堕落させるからこそ怖いのです。日本人にはなかなか理解しがたいことですが。
 悪魔は取り憑いた人間を堕落させます。親に向かって汚い言葉を吐き、十字架で自慰を行うのはホルモンやストレスではなく、悪魔のせいです。(生物的に自然な欲求なのに性知識をつけることを禁止しているせいで、アメリカの「道徳的な」バイブルベルト地帯では未婚者の妊娠率がとても高い…)
 悪魔はそれを祓おうとするエクソシストにも様々な方法で信仰を捨てるよう強要してきます。死んだ母親の声音で、親不孝者だと詰ったり。お前が苦しかった時何も手を貸さなかった神を見限れと誘惑したり。
 さて、キリスト教の最大の敵とは何でしょうか。無神論の生物学者、ドーキンスの著「神は妄想である」にはこうあります。キリスト教信者は異教の神を信じる人よりも、神そのものを信じない無神論者に嫌悪感を抱くと。なのでエクソシスト映画の悪魔には、怪奇現象や憑依を精神病の一種であるように「見せかける」ものもいます。

 キリスト教の信仰、引いては宗教そのものへの懐疑を起こさせる。その破壊性、背徳感(或は理性への目覚め?)が、エクソシスト映画の面白さなのです。


④死霊館の特徴:「清く正しい」ホラー
 長々とエクソシスト映画を論じたのには意味があります。死霊館2 エンフィールド事件はこの真逆を行っているのです。
 この映画はホラーです。でも、不快感の素は意図的に画面から排除されています。ホラーにつきものの、血、排泄物、損傷の描写は殆どありません。
 悪魔の憑依も、全て目に見える現象として発生します。つまり悪魔の存在が肯定されるのです。悪魔が居るということは、その創造者たる神も、キリスト教も肯定され、そこに懐疑を挟む余地はありません。

 エクソシストものというジャンル映画の楽しみを排してまで、ジェームズワン監督は何を作品に託したのか。それは「信仰と家族の愛」です。
 インシディアスのインタビューで監督は「世間は僕を流血と暴力を描く監督として分類したがる。僕は今作でドラマやストーリーに気を配り、流血や暴力を避けた」と語っています。インシディアスでは(パラノーマルアクティビティのスタッフとの共作ということもあり)まだまだドラマパートの作り込みは粗があったものの、作品を経ることに成長が見えます。それが感じられるのはやはり「ワイルドスピード7 スカイミッション」でしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=9EptTFgqnPE
山道を並走した二台が、やがて分岐点でそれぞれの道を走り出す。シリーズの常連キャラクターであり、かつ急逝した俳優ポールウォーカーへの追悼でもあるこのラストに感動しない人はいません。死霊館2はホラーには珍しい2時間越えの作品ですが、その多くをウォーレン夫妻、ホジソン一家それぞれの家族愛を描くのに費やし、実際感情移入出来る作りになっています。
 個人的にはエクソシスト映画もホラーも、人間本性を抉りだす作品が好きで家族とか甘っちょろいこと云ってんじゃねえぞタコ!と毒づきたくなりますが、出発点が出発点だけにジェームズワン監督の転換と、その成功には素直に驚嘆します。


⑤不快なホラーの時代の終わり
 ここ一年で話題になったホラーを見るに、不快さが減り、エモーショナルなホラーが増えたように思います。
 去年公開の「グリーンインフェルノ」は、マスターオブホラー、イーライロスが監督しました。「キャビンフィーバー」や「ホステル」で見せた人の醜さの暴露。食人映画ということもあり期待していましたが、ウェルメイドなコメディーに仕上がっており「面白く」はあるが、心を苛むものがありませんでした。
 先冬公開の「イットフォローズ」は忘れられない一本です。80年代ホラームービーの郷愁を感じずにはいられない画面と音楽。思春期の心身の変調が怪異に侵食される現実感覚と同調する。兎角アイデアばかり取り沙汰されますが、監督自身「性交渉でうつっていくイットは性病の暗示ではない」と語るように、表層のシチュエーションホラー部分のみであの映画の面白さを語るのは愚かでしょう。
 そして、ワン監督のこの「死霊館2」。ホラー映画はいま、確実に変わりつつあります。

 最後になりますが、8月にジェームズワン制作のホラー、「ライト/オフ」が公開されます。
https://www.youtube.com/watch?v=SrJiltfB_Cw
ギレルモデルトロと「MAMA」、イーライロスと「クラウン」しかり、ショートフィルムをプロの監督がフルレングス作品としてプロデュースする流れが来ていますね。
 電気が消えた時だけ現れる幽霊、と聞くと「黒の怨」や「リセット」を思わせますが、ジェームズワン制作なので単なるギミックホラーに終わることはないでしょう。一体どんなドラマを、感動を見せてくれるのか。公開まであと一か月、楽しみで仕方ありません。

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