2020年上半期映画、名邦題・クソ邦題
2020年7月8日 映画 コメント (2)
突発企画。下半期が豊作なら定例化します。
〇この世の終わりみたいな邦題が出来るワケ
近年盛りあがったクソ邦題「ドリーム 私たちのアポロ計画」では、担当者は
と回答。これに代表されるように、邦題は正しさより認知が重要なんです。更に突き詰めるなら、映画業界はライト層が支えているから。
日本映画製作者連盟
http://www.eiren.org/toukei/index.html
NTTコムリサーチ
https://research.nttcoms.com/database/data/002133/
統計に見えるように、購買層の半分は1年に1本も観に行かないし、行く層の中でもヘビーユーザーは1割に満たない。だからビジネスとしては、ぐしゃぐしゃ理屈並べるキモい映画オタクに媚びる必要はないんですよ。積極的に切るべき。
年齢層の問題もあります。ここでの調査方法は飽くまでアンケートなので、低年齢層が切り捨てられている。でも2019年ランキング圏内を見れば分かる通り、ファミリー映画、キッズ映画って滅茶苦茶強いんです。親+ガキで最低二人分の料金が取れる上、ここに物販+ぼったくり飲食販売も付く。だから興行的には家族連れを引き込むのがベスト。馬鹿でも分かるタイトルを付ける傾向になるのも当然ですよね。
以上勘案しつつ、基本はぐじゃぐじゃ理屈並べるキモい映画オタクのスタンスで2020年上半期映画の邦題を振り返ります。
〇ベスト
・『テッド・バンディ』(原題EXTREMELY WICKED, SHOCKINGLY EVIL AND VILE)
「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」…これはテッド・バンディの死刑判決での文言。本国アメリカなら兎も角、日本でこれを聞いてピンと来る人は多くないだろう。逆に日本でしか通じないものを挙げるなら「津山」や「刀・猟銃・懐中電灯」が想起させるイメージだろうか。
加えて、時代の変化もあるかもしれない。90年には映画「羊たちの沈黙」、94年にはレスラー捜査官のプロファイリング本が大ヒット。国内の事件でも少年Aやオウムテロもあり、凶悪犯に多くの注目が集まった。あの時代なら兎も角、2019年ともなるともう皆忘れてるよね。
という訳で、名前だけがシンプル且つベストでしょう。
〇次点
・『1917 命をかけた伝令』(原題:1917)
この歴史年号の与えるイメージが、日本では弱いからサブタイが付いたものと予想。
第一次大戦を描いた作品であるが、この戦争が西欧に与えた影響はデカい。政治的変化はもとより、イギリス文学はロンドン爆撃や大英帝国の揺らぎによって徹底的に暗くなり、塹壕戦・近代兵器の殺戮・傷痍軍人の出現によって戦争文学が大量に生まれた。対し日本文化史的に第一次大戦の影響は小さい。
1917に着目するなら、これはアメリカの参戦、ロシア革命が起きた転換点とも言える年。飽くまで想像だけど、西欧圏はこの年号だけで文化的イメージが湧くんじゃないかなあ。
逆に日本限定を挙げるなら1995。この数字の凄絶さは日本人にしか分からない。
〇ワースト
・『ストーリーオブマイライフ 私の若草物語』(原題:Little Women)
率直な感想を述べると死ねの一言だが、理由は以下。
先ず、クソダサ邦題の類型すら突破している点。クソダサ邦題は「カタカナ+説明サブタイ」の構成を取るが、このカタカナ部分は原題リスペクトゆえの読み上げ表記だ。今回なら「リトルウィメン 若草物語」になる…これならまだ分かる。「若草」で定着している以上、リトルウィメンだけでは通じないかもしれない。けどよぉ、「ストーリーオブマイライフ」はお前どっから捻り出したんだ?
第二に、反復に全く意味がない点。説明は情報を付加するためのものだ。ところが若草物語→ストーリー・ライフ、の→オブ、私の→マイ、と情報が増えていない。それどころか、若草物語という固有性が失われる分、カタカナパートで情報が減ってさえいる。
最後に、私の/myと限定する度し難さ。これでは若草物語が主人公ジョー独りに固定されてしまう。この作品において、全ての女性の人生はどれ一つとして否定されていない。それぞれに幸せと、少しの失望(それゆえの成長)が用意されている。だが私の/myと付けると、まるでジョーの人生だけが特別に見えてしまう(日本版予告はジョー=家庭や男に縛られない女性=正義とフェミって見えるのは私だけだろうか)。
https://www.youtube.com/watch?v=AsVOg6N_hGI
https://www.youtube.com/watch?v=AST2-4db4ic
一つだけ擁護を試みよう。「わたし」を作中人物ジョーではなく、監督のグレタを指しているものと仮定するのだ(ならstory of my lifeじゃなくてmy story of lifeにしろって話だが)。だが、「グレタ・ガーウィグの若草物語」では絶対に通らなかったろう。何故なら日本で彼女を知っているのはキモい映画オタクだけだから。寧ろ、「グレタ」で連想するのは中国の環境汚染は決して非難しない少女運動家、グレタ・トンベリの方だ。トランプとアベにHow dare you!を突き付けるトンベリが見れると思ったのに!と早とちりするドアホが出ない分、邦題にグレタの名前を出さなかったのは英断と言えるかもしれない。
ソニーピクチャーズ担当さんの品性知性は死んでいるが、映画は隅々まで生気の宿った傑作なので是非観に行って下さい。この先時間が経てば、MGM版に並ぶ古典に位置づけられる筈。
〇この世の終わりみたいな邦題が出来るワケ
近年盛りあがったクソ邦題「ドリーム 私たちのアポロ計画」では、担当者は
「映画の内容としてはマーキュリー計画がメインであることは当然認識しています」
「その上で、日本のお客様に広く知っていただくための邦題として、宇宙開発のイメージを連想しやすい『アポロ計画』という言葉を選びました」
と回答。これに代表されるように、邦題は正しさより認知が重要なんです。更に突き詰めるなら、映画業界はライト層が支えているから。
日本映画製作者連盟
http://www.eiren.org/toukei/index.html
NTTコムリサーチ
https://research.nttcoms.com/database/data/002133/
統計に見えるように、購買層の半分は1年に1本も観に行かないし、行く層の中でもヘビーユーザーは1割に満たない。だからビジネスとしては、ぐしゃぐしゃ理屈並べるキモい映画オタクに媚びる必要はないんですよ。積極的に切るべき。
年齢層の問題もあります。ここでの調査方法は飽くまでアンケートなので、低年齢層が切り捨てられている。でも2019年ランキング圏内を見れば分かる通り、ファミリー映画、キッズ映画って滅茶苦茶強いんです。親+ガキで最低二人分の料金が取れる上、ここに物販+ぼったくり飲食販売も付く。だから興行的には家族連れを引き込むのがベスト。馬鹿でも分かるタイトルを付ける傾向になるのも当然ですよね。
以上勘案しつつ、基本はぐじゃぐじゃ理屈並べるキモい映画オタクのスタンスで2020年上半期映画の邦題を振り返ります。
〇ベスト
・『テッド・バンディ』(原題EXTREMELY WICKED, SHOCKINGLY EVIL AND VILE)
「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」…これはテッド・バンディの死刑判決での文言。本国アメリカなら兎も角、日本でこれを聞いてピンと来る人は多くないだろう。逆に日本でしか通じないものを挙げるなら「津山」や「刀・猟銃・懐中電灯」が想起させるイメージだろうか。
加えて、時代の変化もあるかもしれない。90年には映画「羊たちの沈黙」、94年にはレスラー捜査官のプロファイリング本が大ヒット。国内の事件でも少年Aやオウムテロもあり、凶悪犯に多くの注目が集まった。あの時代なら兎も角、2019年ともなるともう皆忘れてるよね。
という訳で、名前だけがシンプル且つベストでしょう。
〇次点
・『1917 命をかけた伝令』(原題:1917)
この歴史年号の与えるイメージが、日本では弱いからサブタイが付いたものと予想。
第一次大戦を描いた作品であるが、この戦争が西欧に与えた影響はデカい。政治的変化はもとより、イギリス文学はロンドン爆撃や大英帝国の揺らぎによって徹底的に暗くなり、塹壕戦・近代兵器の殺戮・傷痍軍人の出現によって戦争文学が大量に生まれた。対し日本文化史的に第一次大戦の影響は小さい。
1917に着目するなら、これはアメリカの参戦、ロシア革命が起きた転換点とも言える年。飽くまで想像だけど、西欧圏はこの年号だけで文化的イメージが湧くんじゃないかなあ。
逆に日本限定を挙げるなら1995。この数字の凄絶さは日本人にしか分からない。
〇ワースト
・『ストーリーオブマイライフ 私の若草物語』(原題:Little Women)
率直な感想を述べると死ねの一言だが、理由は以下。
先ず、クソダサ邦題の類型すら突破している点。クソダサ邦題は「カタカナ+説明サブタイ」の構成を取るが、このカタカナ部分は原題リスペクトゆえの読み上げ表記だ。今回なら「リトルウィメン 若草物語」になる…これならまだ分かる。「若草」で定着している以上、リトルウィメンだけでは通じないかもしれない。けどよぉ、「ストーリーオブマイライフ」はお前どっから捻り出したんだ?
第二に、反復に全く意味がない点。説明は情報を付加するためのものだ。ところが若草物語→ストーリー・ライフ、の→オブ、私の→マイ、と情報が増えていない。それどころか、若草物語という固有性が失われる分、カタカナパートで情報が減ってさえいる。
最後に、私の/myと限定する度し難さ。これでは若草物語が主人公ジョー独りに固定されてしまう。この作品において、全ての女性の人生はどれ一つとして否定されていない。それぞれに幸せと、少しの失望(それゆえの成長)が用意されている。だが私の/myと付けると、まるでジョーの人生だけが特別に見えてしまう(日本版予告はジョー=家庭や男に縛られない女性=正義と
https://www.youtube.com/watch?v=AsVOg6N_hGI
https://www.youtube.com/watch?v=AST2-4db4ic
一つだけ擁護を試みよう。「わたし」を作中人物ジョーではなく、監督のグレタを指しているものと仮定するのだ(ならstory of my lifeじゃなくてmy story of lifeにしろって話だが)。だが、「グレタ・ガーウィグの若草物語」では絶対に通らなかったろう。何故なら日本で彼女を知っているのはキモい映画オタクだけだから。寧ろ、「グレタ」で連想するのは
ソニーピクチャーズ担当さんの品性知性は死んでいるが、映画は隅々まで生気の宿った傑作なので是非観に行って下さい。この先時間が経てば、MGM版に並ぶ古典に位置づけられる筈。
コメント
実際のところ松谷みよこ先生の編纂された現代フォークロア(ぬ~べ~アニメ化は翌年)、日記内でも書いたサイコパス、オウムやノストラダムスの終末思想などサブカル界のオカルトブームが色濃くなりだした時期かなと思います。