『ランボー:ラストブラッド』
2020年7月15日 映画
スタローンはラジー賞常連で有名ですが、今作ラストブラッドも2020年度でワーストリメイク/パクり/続編賞、人命軽視および公共物破損が目に余る作品賞を獲得しました。日本ではそこまで評価の低くない本作、長所短所をそれぞれ考えてみた。
粗筋:ビルマでの激戦から11年、ジョン・ランボーは父から継いだ牧場に隠棲し、旧友のマリアとその孫ガブリエラとの幸せな日々を送っていた。
ある日、ガブリエラが失踪した父の消息を知り、メキシコに訪ねに行って良いか求めてくる。妻子を捨てた屑なうえ、行先がメキシコなだけに強硬に反対するランボー。だがガブリエラは二人に内緒で家を飛び出し、メキシコへと向かってしまう。娘同然の彼女の出奔を知り、後を追うランボー。だがガブリエラは既にカルテルの手に落ちていた…。
①ジャンルミックス
本作は「ランボー」ジャンルと「舐めてた相手が殺人マシーンでした」ジャンルのミックスと言えます。
粗筋見れば分かる通りリュックベッソンの「96時間」丸パクリではあるものの、第三幕は違ってくる。結局ガブリエラは助けられず、復讐の鬼と化したランボーが農場に敵を誘い込む。お得意のゲリラトラップを山と仕掛け、カルテル兵士の一団を大虐殺するラストへとなだれ込んでいく。
ランボーはシリーズを通して「傷を負い、自他共に幸せに出来ない結果に終わるがそれでも生きていく」苦さが魅力の一つ。前作「最後の戦場」に迫るやり過ぎなゴアアクションを含め、後半20分の見ごたえはある。ここで評価する人が出るのも分かるんですが…。
②評価基準
ここから酷評を始めるワケですが、評価基準として「スタローン、お前言うほど真面目か?」ってスタンスを設けます。ランボーシリーズはどれも現実の社会情勢を反映していて、ハードさへの批判に対してスタローンは「現実の悲惨さを反映させたいから」と発言している。シュワちゃんとは同じ括りには出来ないし、B級アクション時空をメタ視点で捉えた自身の「エクスペンダブルズ」シリーズともリアリティの置き所は違うんですよ。
であるのに、メキシコ問題への無知と偏向がある。結果、脚本がガッタガタになっているのを説明していきます。
③レイシズム
rotten tomatoで最も多かった指摘だが、メキシコ蔑視が過ぎる。
スタローンは敬虔なキリスト者+共和党支持というゴリゴリの保守派。それが悪い意味で発揮されたのが3作目「怒りのアフガン」で、ソ連に対抗するイスラム兵士を猛プッシュ。現実にはソ連撤退後内乱となり、タリバン樹立に発展していくのだが…。
ところが今作でもトランプが憑りついたかのようにメキシコをステレオタイプにこき下ろす。本国公開は2019年だが、劇中での「メキシコ警察はクソだ!」のセリフは世情を鑑みれば反感を覚える観客が出るのは当然。「アメリカよりも」や「アメリカと同じくらい」なら風刺として成り立つが、まるでアメリカには何の問題もないのに、隣に爆弾国家を抱えているかのような描写は幼稚の一言。
④国境描写
スタローンの無知さ加減はまだ続く。ランボーはガブリエラを追い自身もメキシコ入りをするのだが、車中で銃を腰に差しそのまま国境検問所へと向かっていく。メキシコ→アメリカへの密輸がドラッグと不法移民なら、アメリカ→メキシコへの最大の密輸品は銃だ。カルテルはアメリカでストローパーチェス(銃の代理購入)で仕入れ、分解したものを燃料タンク内やバンパー下に仕込んでメキシコへ越境させる。最も警戒される物品をこんな無造作に描写するかねえ…。
ガブリエラの亡骸を助手席に乗せアメリカへと密帰国するシーンも酷い。車が通れるほど平坦な区域なのに国境は鉄条網だけ、おまけに国境警備隊やレーダー監視がない。
報復でカルテルが集結するシーンも噴飯もの。メキシコ国内で完全武装し、真っ黒な大型ワゴン10台以上が一直線になってアメリカに向かうのだ。こんなイカレ集団を素通りさせる国境検問所はない。役人を買収する、岩陰の地下トンネルに入る、アメリカ本国で武器人員を調達する…そういうショットをほんの数秒入れれば済む話なのに。
映画的飛躍はあっても良いんです。ただ全部がぜんぶ非現実的で、細部を詰める努力が見えないと無知か馬鹿なんだって透けちゃうんですよ。
⑤マフィア描写
中学生が考えたようなゴロツキ集団。メキシコカルテルの犯罪は多角化しているという現実は100歩譲って「マルティネスファミリーは女衒一本!」にしましょう。でも、この売春産業が成り立つリアリティが欠片もない。
組織犯罪である以上システムはある筈で、「ボーダーライン」「悪の法則」「カルテルランド」といった傑作達はそれが如何に緻密なのかを感じさせてくれた。売春にスポットを当てて問題提起するなら、ここをこそ詳説すべきでしょ。ガブリエラ=女性が如何に捕えられ、売春婦として管理され、収益化されていくのかを。
「現実の悲惨さ」を描きたいと言いながら、アメリカ人が酷い目に遭う様子ではなく有色人種の虐殺でそれを表現したいっていうのは、そりゃあんたレイシスト呼ばわりされても仕方ないよね。
⑥第二幕の無意味さ
ガブリエラの居所を突き止めたランボーが敵に捕らえられ、タコ殴りに遭う下りが意味不明。完璧な戦闘マシーンたるランボーが無策で敵陣にテクテク入るのが先ずバカ過ぎない?ここは寧ろ、慎重に行動している筈が敵の情報網で徐々に追い詰められる展開にした方がカルテル支配の恐ろしさを表現できた筈。
次にカルテル側の制裁。「見せしめとして印を刻んでやる」と宣告され、ナイフで頬にバッテンを刻み込まれるのだが…その見せしめって誰に対して?メキシコカルテルは確かに常軌を逸した見せしめをするよ。でもそれは警察署前に顔面を剥いだ生首を5,6個並べたりとか、欄干に首つり死体をぶら下げたりとか非常に効果的なやり方。
たかがアメリカ流れ者一人を、鼻耳指を削ぐでもなくイキったヤンキーみたいな嬲り方して誰が怖がるの?何で自分らの本拠地前に放置すんの?恐怖を与えたいならメッセージ付けて町の目立つ場所に放置でしょ?何でガブリエラも「連帯責任じゃ!」と頬を刻むの?商品価値損なうよ?売春窟内にどんな教育的効果があるの?
⑦スタローン
こうもスタローンを名指しにするのはワケがある。彼はランボー2以降主演のみならず脚本も務めているが、今作は彼自身が設立した「バルボアプロダクション」の作品。
おまけに今作の監督、ネットフリックスのドラマ「ナルコス」の第二班監督なのよね。なのにこれほど酷いメキシコ描写になったのは「スタローンに逆らえなかったんやろな…」ってこと。
ラスト20分を加味しても、文句なく駄作。予告編見て、後は動画サイトで残酷ホームアローンパートを視聴すれば済む映画でした。
粗筋:ビルマでの激戦から11年、ジョン・ランボーは父から継いだ牧場に隠棲し、旧友のマリアとその孫ガブリエラとの幸せな日々を送っていた。
ある日、ガブリエラが失踪した父の消息を知り、メキシコに訪ねに行って良いか求めてくる。妻子を捨てた屑なうえ、行先がメキシコなだけに強硬に反対するランボー。だがガブリエラは二人に内緒で家を飛び出し、メキシコへと向かってしまう。娘同然の彼女の出奔を知り、後を追うランボー。だがガブリエラは既にカルテルの手に落ちていた…。
①ジャンルミックス
本作は「ランボー」ジャンルと「舐めてた相手が殺人マシーンでした」ジャンルのミックスと言えます。
粗筋見れば分かる通りリュックベッソンの「96時間」丸パクリではあるものの、第三幕は違ってくる。結局ガブリエラは助けられず、復讐の鬼と化したランボーが農場に敵を誘い込む。お得意のゲリラトラップを山と仕掛け、カルテル兵士の一団を大虐殺するラストへとなだれ込んでいく。
ランボーはシリーズを通して「傷を負い、自他共に幸せに出来ない結果に終わるがそれでも生きていく」苦さが魅力の一つ。前作「最後の戦場」に迫るやり過ぎなゴアアクションを含め、後半20分の見ごたえはある。ここで評価する人が出るのも分かるんですが…。
②評価基準
ここから酷評を始めるワケですが、評価基準として「スタローン、お前言うほど真面目か?」ってスタンスを設けます。ランボーシリーズはどれも現実の社会情勢を反映していて、ハードさへの批判に対してスタローンは「現実の悲惨さを反映させたいから」と発言している。シュワちゃんとは同じ括りには出来ないし、B級アクション時空をメタ視点で捉えた自身の「エクスペンダブルズ」シリーズともリアリティの置き所は違うんですよ。
であるのに、メキシコ問題への無知と偏向がある。結果、脚本がガッタガタになっているのを説明していきます。
③レイシズム
rotten tomatoで最も多かった指摘だが、メキシコ蔑視が過ぎる。
スタローンは敬虔なキリスト者+共和党支持というゴリゴリの保守派。それが悪い意味で発揮されたのが3作目「怒りのアフガン」で、ソ連に対抗するイスラム兵士を猛プッシュ。現実にはソ連撤退後内乱となり、タリバン樹立に発展していくのだが…。
ところが今作でもトランプが憑りついたかのようにメキシコをステレオタイプにこき下ろす。本国公開は2019年だが、劇中での「メキシコ警察はクソだ!」のセリフは世情を鑑みれば反感を覚える観客が出るのは当然。「アメリカよりも」や「アメリカと同じくらい」なら風刺として成り立つが、まるでアメリカには何の問題もないのに、隣に爆弾国家を抱えているかのような描写は幼稚の一言。
④国境描写
スタローンの無知さ加減はまだ続く。ランボーはガブリエラを追い自身もメキシコ入りをするのだが、車中で銃を腰に差しそのまま国境検問所へと向かっていく。メキシコ→アメリカへの密輸がドラッグと不法移民なら、アメリカ→メキシコへの最大の密輸品は銃だ。カルテルはアメリカでストローパーチェス(銃の代理購入)で仕入れ、分解したものを燃料タンク内やバンパー下に仕込んでメキシコへ越境させる。最も警戒される物品をこんな無造作に描写するかねえ…。
ガブリエラの亡骸を助手席に乗せアメリカへと密帰国するシーンも酷い。車が通れるほど平坦な区域なのに国境は鉄条網だけ、おまけに国境警備隊やレーダー監視がない。
報復でカルテルが集結するシーンも噴飯もの。メキシコ国内で完全武装し、真っ黒な大型ワゴン10台以上が一直線になってアメリカに向かうのだ。こんなイカレ集団を素通りさせる国境検問所はない。役人を買収する、岩陰の地下トンネルに入る、アメリカ本国で武器人員を調達する…そういうショットをほんの数秒入れれば済む話なのに。
映画的飛躍はあっても良いんです。ただ全部がぜんぶ非現実的で、細部を詰める努力が見えないと無知か馬鹿なんだって透けちゃうんですよ。
⑤マフィア描写
中学生が考えたようなゴロツキ集団。メキシコカルテルの犯罪は多角化しているという現実は100歩譲って「マルティネスファミリーは女衒一本!」にしましょう。でも、この売春産業が成り立つリアリティが欠片もない。
組織犯罪である以上システムはある筈で、「ボーダーライン」「悪の法則」「カルテルランド」といった傑作達はそれが如何に緻密なのかを感じさせてくれた。売春にスポットを当てて問題提起するなら、ここをこそ詳説すべきでしょ。ガブリエラ=女性が如何に捕えられ、売春婦として管理され、収益化されていくのかを。
「現実の悲惨さ」を描きたいと言いながら、アメリカ人が酷い目に遭う様子ではなく有色人種の虐殺でそれを表現したいっていうのは、そりゃあんたレイシスト呼ばわりされても仕方ないよね。
⑥第二幕の無意味さ
ガブリエラの居所を突き止めたランボーが敵に捕らえられ、タコ殴りに遭う下りが意味不明。完璧な戦闘マシーンたるランボーが無策で敵陣にテクテク入るのが先ずバカ過ぎない?ここは寧ろ、慎重に行動している筈が敵の情報網で徐々に追い詰められる展開にした方がカルテル支配の恐ろしさを表現できた筈。
次にカルテル側の制裁。「見せしめとして印を刻んでやる」と宣告され、ナイフで頬にバッテンを刻み込まれるのだが…その見せしめって誰に対して?メキシコカルテルは確かに常軌を逸した見せしめをするよ。でもそれは警察署前に顔面を剥いだ生首を5,6個並べたりとか、欄干に首つり死体をぶら下げたりとか非常に効果的なやり方。
たかがアメリカ流れ者一人を、鼻耳指を削ぐでもなくイキったヤンキーみたいな嬲り方して誰が怖がるの?何で自分らの本拠地前に放置すんの?恐怖を与えたいならメッセージ付けて町の目立つ場所に放置でしょ?何でガブリエラも「連帯責任じゃ!」と頬を刻むの?商品価値損なうよ?売春窟内にどんな教育的効果があるの?
⑦スタローン
こうもスタローンを名指しにするのはワケがある。彼はランボー2以降主演のみならず脚本も務めているが、今作は彼自身が設立した「バルボアプロダクション」の作品。
おまけに今作の監督、ネットフリックスのドラマ「ナルコス」の第二班監督なのよね。なのにこれほど酷いメキシコ描写になったのは「スタローンに逆らえなかったんやろな…」ってこと。
ラスト20分を加味しても、文句なく駄作。予告編見て、後は動画サイトで残酷ホームアローンパートを視聴すれば済む映画でした。
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