エメリッヒ駄目だなぁ映画、『ミッドウェー』について大いに語る
エメリッヒ駄目だなぁ映画、『ミッドウェー』について大いに語る
粗筋 1941年、真珠湾を日本軍が急襲した。大打撃を受けたアメリカ海軍は、新たな指揮官に士気高揚に長けたニミッツ大将を選任。両国の攻防が続く中、日本本土の爆撃に衝撃を受けた日本軍は、大戦力を投入した次なる戦いを計画する。
 一方、真珠湾の反省から暗号解読など情報戦に注力したアメリカ軍は、目的地をミッドウェイと分析。双方共に総力をあげた大海戦が始まる…。
 

①エメリッヒ監督への世評
 今作の監督、ローランドエメリッヒは何と言っても大作ディザスタームービーの人。「インディペンデンスデイ」の特大ヒット以降、マグロ怪獣現る「GODZILLA」「デイアフタートゥモロー」「紀元前1万年」「2012」とその路線を歩んできたワケです。
 挙げた諸作品に言えることは、「事務的・無神経」のひとこと。地球全体がヤバい事態が起きているも、人間の描写がとにかく類型的で雑。主人公以外はぞんざいに死ぬ一方、主人公にも葛藤や成長がない。大災害は起これど、それで当然生じる筈の人間ドラマが存在してないんですよ。そのため、ラジー賞の常連でもあります。


②エメリッヒ近況
 エメリッヒ自身、バカ扱いは承知しているのかここ10年は新境地の開拓にも積極的です。歴史もので「もうひとりのシェイクスピア」を撮ったかと思えば、「ダイハード」路線を狙った「ホワイトハウスダウン」もありました。
 ただゲイ解放運動を扱った「ストーンウォール」は致命的でした。彼自身ゲイをカミングアウトしているのに、主人公を架空の白人男性にして、ストーンウォール暴動へのマイノリティー参加描写を排除。おまけに、批判された際には「あれは白人による運動だった」と反論して更に炎上…。
 キャリアが低迷する中、あれほど嫌いだった続編商法で作った「インディペンデンスデイ:リサージェンス」も大失敗。彼は崖っぷちの状態で「ミッドウェー」に臨んだワケです。 


③「ミッドウェー」制作の真摯さ
 これまでの悪評に懲りたか、今作は驚くほど誠実な作りです。エメリッヒ映画で音楽・制作・(駄作方面の)脚本を担当してきたハラルドクローサーは制作に回り、代わりに軍オタのウェス・トゥークが脚本を担当。ミリタリーディティールが凝っている上に、セットや衣装の美術も気配りが利いている。
 エメリッヒ自身がドイツ出身ということもあり、一歩引いた形で日米戦を捉えているのも特徴。インタビューで答えている通り、日本側を一方的な悪にするのではなく、帝国軍人にも敬意を払った描写にはなっている。同じバカアクション監督枠、それに真珠湾奇襲となればマイケルベイの「パールハーバー」が直ぐ思いつきますが、あの黄猿ジャップ描写とは天と地ですよ!その志は立派!…なんだけどねえ…。


④脚本の下手くそさ:群像劇
 結論言って良いっすか?お話作り下手過ぎだろ!
 本作は群像劇スタイルを取っています。ニミッツ大将の米司令サイド、ベスト大尉のパイロットサイド、レイトン少佐・ロシュフォート少佐の情報部サイド、五十六・南雲・多聞の日司令サイド、以上の4つです。
 群像劇の一つの楽しさとして、一見無関係に見えた複数の登場人物が徐々に接点を持ち始め、交叉の連続が大きな物語を作っていく…という形式があります。今作は史実に忠実な作りである以上、司令と現場の交流自体は無理でしょう。並行のまま交差しない、「メリーゴーラウンド」形式を取っている。
 ただ、これにもやりようがあるよね。立場は違えど個々人の性格信条が同一・或いは正反対で、それが行動やその結果にも類似・対照的に表れてくる面白さとか。「若草物語」のように反復と変化を重ねて、エピソードそのものは独立していても演出だけでぐいぐい引き込むだとか。
 今作は4サイドの話が並行して進むのだけれど、てんでバラバラで相互の連関がない上に、演出上の繋がりもない。登場人物無駄に増やして映画の尺140分取っただけにしか見えないの!もっと整理しようよ?例えばパイロットサイドで言えば、ベスト大尉とマレー通信士のタッグは兎も角、エンタープライズ号の指揮官、上官、ライバルまで丁寧に描く必要あるか?
 

⑤脚本の下手くそさ:配分
 脚本の問題で言えば、配分も全く上手くない。1941年12月の真珠湾攻撃から翌年6月のミッドウェー海戦までを追うのだが、そのどれもがダイジェスト。ウェス・トゥークはパンフの中で「全て事実で、時系列通りに描いた」と誇らしげに語っているが、それがこのダイジェスト年鑑かよ!
 劇映画として戦争群像劇の時間軸を扱うには手が二つある。一つはオムニバススタイル。上に挙げた4サイドを、入り混じるのではなく独立したものにする。司令サイドで始まった話が、ドーリットル空襲になったらパイロットサイドへバトンタッチ。それが進んだら、今度は情報部サイドに話が移る…。サイドを交替するたびに人物紹介パートで一旦時間が後ろに戻るものの、全体的にはラストへ近づくという話運びだ。
 時系列順にどうしても拘りたいなら、「見せ場」を作るのも手。空襲、ドッグファイト、急降下爆撃など、アクションシーンをじっくり見せて迫力と臨場感で持っていく。情報部サイドでも、その有能さを具体的に見せればケイパー的な楽しみ方も出来た筈だ。それなのに、どれも引っ切り無しの視点移動であっさり済まされ、盛り上がらない。
 エメリッヒって、寧ろここだけは魅力だった筈でしょ?人間ドラマがどれだけ雑でも、ディザスターシーンをたっぷりサービスしてくれれば、その部分は楽しかった。冒頭真珠湾、終盤ミッドウェーの間1時間半が、どうしてもこうも退屈かねえ…。


⑥会戦の映画的醍醐味
 ラスト45分、いよいよミッドウェー海戦に突入するのだが、ここも上手くない。
 僕は大規模会戦の面白さを、「双方がどのような陣容で、どういう作戦に出るのか。互いに消耗する中、やがて趨勢が決まっていく」様を映像で見せるところにあると思う。これを全くできていない。
 空中・海上・海中と3つの異なる領域で同時に行われる戦闘…と聞けばノーラン監督の「ダンケルク」が浮かぶ。あれは航空機―船―海岸の直線上で戦闘が行われ、前で起きた結果が後々別の領域での戦闘に繋がる様を演出だけで見せていた。或いは「バトルシップ」。今作とは比較にならないほどのバカ映画だけど、元ネタがレーダー作戦ゲームだけあって、人間・宇宙人の戦艦の配置、取る戦法、それによる勝敗が分かり易く整理されていた。
 前項で脚本の配分が下手、ダイジェストとくさしたけれど、ラストの大海戦も同じ状況に陥っている。「時間軸を丁寧に追う」は聞こえは良いが、どれもじっくり見せず、おまけに矢継ぎ早に視点が入れ替わるため、「今何をしていて、戦況はどっちが有利なのか」が分からない。
 例えばさ、出撃の朝には略式海図の上で日本側は空母4隻でミッドウェー島を襲う計画、対するアメリカは敵想定艦隊に対し航空隊で反撃する計画を最終確認する様子をカットバックで繋ぐ。その後、同じ構図のまま実際の戦場海域を俯瞰ショットで見せる…とかさ!他にも、空母が陥ちたら「加賀、大破!残る我が軍の空母は3隻です!」と伝令が報告して、盤上のコマを一つ退場させる、とかさ!位置取り、リアルタイム損耗ぶりをグラフィカルに見せて?

 何故ここまで食い下がるかというと、エメリッヒは昔やれてたんですよ。キャリアでも異色且つ評価の高い「パトリオット」でも、ラストに英米大会戦がある。一列横隊に並ぶ銃歩兵が互いに距離を詰め、撃ち合う。被弾し斃れる者が続出する中、イギリス側は騎兵を早く出し過ぎる。対する米軍は大砲で英騎・歩兵軍に痛打を浴びせ、一気に接近戦をしかける…。めちゃくちゃ見やすい会戦シーンだった。
 対する今作は時代考証に凝る余り、映像的な面白さを忘れてしまったように思うんですよね。


⑦結びに
 ミッドウェーという題材自体は、非常に良い。地獄の地上戦になる前、最初期の太平洋戦争なので職業軍人同士の知力と誇りを賭けた戦いになっている。そのため真面目な作りながらも、戦争の悲惨さをそこまで取り入れずとも非難されない程度には華やかな娯楽大作になれた。
 たださ、ラストの〆くらいには鎮魂と平和への希求を込めなよ。
「戦争には勝者も敗者もいない。皆が敗者だ。どっちの国の人も死ぬんだから」

とエメリッヒ自身言っている。エンドクレジットの献辞では、「この映画を日米両方の将兵に捧ぐ」とも言っている。ならさ、その手前でミッドウェー海戦で武勲を上げた兵士だけに敬意を払うのは、無神経だよね。ここで散った4千人の死者も、映像的に指すようにしなきゃ。
 ミッドウェー沿岸に漂着する死体、海底に沈む空母の残骸。そういうショットで、終えるべきだよ。







 以上、約4千字評でした。真摯さが伝わる分、熱を込めて罵倒したくはならないなあ。「ランボーラストブラッド」みたく、怒りがこみ上げるタイプじゃない。

 あ、今回からちゃんとレビューする映画のパンフレットは買うようにしました。こき下ろす対象にはちゃんとお金払わないとね。

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