お題目それ自体はご立派な映画、「トロールズ ミュージック★パワー』について大いに語る
粗筋 歌・踊り・ハグが大好きなトロール族。ポップ・トロールの女王ポピーは、ロック・トロール族の女王バーブからある日挑戦状をもらう。それを見て色をなす元王、ペピー。
 彼が語るには、かつてトロール6部族は一緒に暮らしており、6本の弦の下であらゆる音楽が奏でられていたという。しかしロック・トロールの先祖が暴走、諸部族は決裂。各々が1本づつ弦を取り離散した…。
 同じトロールだから話せば分かる、と取り合わずバーブに会いに行くポピー。しかし道すがら訪れたクラシック・トロールの村は、既にロック族の襲撃に遭い焼け野原になっていた。



①作品概説
 『シュレック』『ボスベイビー』などで知られるドリームワークスアニメーションの最新作である今作、実は続編である。しかしながら、『トロールズ1』を知らない人も多いだろう。何せビデオスルーであり、それを日本配給が全く広める気がない。DWスタジオは、先年買収され、それに伴い配給が20世紀FOXからユニバーサル(日本では東宝東和が担当)に変わっている。
 今回、吹き替え声優がFOX配給時から一新されたが、この改変は止むを得ないと思う。20世紀FOX時代の配給は本当にやる気がなくて、DWアニメは全てビデオスルー続きだった。大傑作「ヒックとドラゴン2」でさえ、まともな公開をせず終い。そんな過去ときっぱり訣別するために話題性キャスティングするのも…アリでしょそりゃ!
 因みに前作との繋がりは然してなく、冒頭で分かり易い世界観説明があるので単体作品として問題なく鑑賞出来ます。ご安心を。


②特徴:毒っけ
 今作の特徴は2つ。DWらしい毒っけの強さと、特徴的な画作りにある。
 DWスタジオは、発祥からして反ディズニー的だ。ディズニー暗黒時代をもたらしたマイケル・アイズナーに離反した人々が、スピルバーグと合流して出来たのがドリームワークス。だからこそ、その中核たるカッツェンバーグは「ディズニーはガキ向け」と発言してもいる。
 今作は、「マダガスカル」「シュレック」などの初期DW作品に回帰したかのようにアクの強いネタが満載だ。単性生殖で生まれた赤ん坊が5秒後には労働で搾取されたり、実写とアニメーションをミックスしたドラッギーなトリップムービーが展開したり。中でも笑ったのが、ロックトロールの根城での一幕。痴呆老人を皆で応援して、ちょっとの動作に「流石伝説のおやじだ!」とバカ騒ぎするところ、「悪魔のいけにえ」の地獄食卓シーンを思い出します。


③映像クオリティ
 何と言ってもキャッチ―なのが、この人形を模したビジュアル。元はノルウェーの妖精であるトロールが、戦後に幸せの人形として全世界でブームに。それを映像化したのが前作だ。
 質感表現とライティングは前も凄かったが、今作は材質の多様さとモノの動きにも注目したい。6部族ごとに世界観が違うので表現する材質が違うし、滝が流れるシーンでは水そのものではなくセロファンがさらさらと落ちることで表現(実写人形劇じゃなく、3DCGでわざわざですよ?)。砂漠で砂山が崩れる時は、物理演算で滑らかに動かすのではなく、ストップモーションアニメのようなコマ送りで金箔の山が崩れる。3Dアニメはリアルさを追求して発展してきたが、『LEGOムービー』やスタジオライカのように敢えての古臭さで演出してくれるのは嬉しい。


④メタファー
 さて、それではストーリーをメタファーの観点から見て行こう。
 ロック・トロールは急成長を遂げ、周辺諸国に文化侵略をし自文化で統一しようとする…。まあ、某中国のような新興超大国がモチーフだろう。それでは、対するポップ・トロールは何か。
 旅を続けるにつれ、先祖の悪行をポピーは知ってしまう。6部族決裂の原因はロックではなく、ポップ側にあった。自分たちの文化こそが最高だと押し付けようとしたのだ。過去に過ちを犯した老大国なら、先住民、奴隷を迫害した帝国主義列強、中でもアメリカがモチーフだろう。
 ピクサーアニメやマーベル映画などでも、現代社会がテーマの作品は無数にある。その中で今作の独自性を挙げるならば、「国家と民族」の違いを打ち出しているところだろうか。ポップ・トロールのひとり、クーパーが「実は自分は別種族なのでは?」と疑問を持ち旅に出るサブストーリーが展開する。1のサブキャラを使い、しかもメインストーリーと無理なく合流させる辺りのストーリーテリングは上手い。


⑤大きな物語
 当初は正しいと思っていた理想の誤りを認め、成長する…昨今のディズニー作品に共通する手法ではあるが、成程これ自体は良い。だが、今作ではひっかかる点がある。自分の過ちを認めるなら兎も角、「先祖の過ち=自分の過ち」に即つながるのはおかしくないか?これはアナ雪2にも感じた違和感だ。白人であること自体は罪ではないだろう、先祖から受けついだ白人的価値観を旧套墨守するのが罪なのではないか??


⑥小さな物語
 自文化絶対視による諍いを大きな物語とするならば、小さな物語はポピーの成長過程だ。彼女は旅の途中、湿っぽい歌ばかりが好きなカントリートロールに「ポップの方が楽しくて幸せだよ!」と押し付けを試み、大顰蹙を買う。この部分は良い、だがポップ・トロール同士の諍いは上手く行っていない。
 仲間のひとり、ビギーと「危険な目に遭わせないでね」と約束をし、それが後々破られたことで仲違いに陥るのだが…ここが納得出来ない。「ポピーは人の言い分を訊かない、自分勝手だ」としてビギーが非難するのだが、彼女は衝動的に興味に飛びつく性格だ。…ありていに言えばADHD的で、判断の際に他の選択肢が頭にないように見える。ここ、寧ろ逆に出来なかっただろうか。「判断の際に、仲間と価値観を天秤にかけて、後者を選んでしまう」表現に。
 折角、6本の弦という「奪われてはいけない大切なもの」が劇中に出るのだから、活用すれば良かった。逃走アクションの最中、バウンドするなどして、ベギーと弦の両方が車から放り出される。スローモーションがかかる中、両者を目で追うポピー…そこで、一瞬迷って弦を掴むのだ。幸い仲間のフォローもあり大事には至らなかったが、あの時の決断について口論させる。
ベギー「何で掴んでくれなかったの?」
ポピー「だって、これは私達の宝物なんだよ?守って当然じゃない?
ベギー「僕の命よりも??」
こう詰問されても、咄嗟に否定できない。仲間(現在)よりも、モノ(伝統)を優先させてしまう。なればこそ、後々でその自分が信じてきた伝統に影があることを知れば、彼女の成長に繋がるのだが。
 世界を巡る大きな物語と、主人公たちの小さな物語が呼応するのはファンタジーの王道だが、今作はそこに微妙なブレがあるのは否めない。


⑦理屈と情念
 今作の最大の欠点は、悪役バーブの顛末である。彼女は他部族全てを併呑し、全世界をロック色に染めようとする。対するポピーは、それぞれが独自性を保ちながら共存しようと提案、これにロック族からも賛同の声が出る。それでも強硬手段に出るバーブに、ポピーは6本の弦を破壊。世界から一瞬全ての音楽が失われるが、心臓の鼓動、喉の響き、手拍子、唱和と人類の進化を辿る形で原初のビートを一人一人が奏で始め、新たな音楽が出現する…。ここの映像的説得力は確かに凄い。
 「対立ではなく共存を、画一化を伴わぬ調和を」…。ご高説はごもっとも。そりゃ和解した方が良いに決まってるわな。だが、考えを改めても、過去は変えられない。バーブの悪行がチャラになって良いのか?
 現実に目を戻せば、第二次大戦後にニュルンベルク裁判や東京裁判があった。戦争勃発時に国際法で規定のない罪で、敗戦国指導者をつるし上げる。これらは法的根拠のない「復讐裁判」と言われた。
 けれど、意味はあったと思うのだ。復讐、詰まり憂さ晴らしだ。国家の名で起きた虐殺の責任を指導者に転嫁して、それ以降、国家や民族規模での憎悪の応酬を止めさせる。心の落としどころ、ケジメの問題だ。これが今作には全くない。
 

⑧悪役の役割
 ここで前作『トロールズ』を振り返りたい。捕食部族ベルゲンと、被食部族トロールの対立。しかしベルゲン側を一方的に悪とは描かなかった。ベルゲン側に善人が居る一方、トロールにも悪人が居る。両方の悪人同士がラストで成敗され、痛み分けの形で過去を(それでも強引にだが)水に流したのだ。
 今作はどうか。ポップトロールは過去の悪行が有るから、おあいこと言えなくもない。だがファンク、クラシック、カントリー、テクノは過去現在通して被害者側だ。
 ロックは言うまでもない。アニメのファンタジー表現でフィルターが掛かってはいるが、バーブらは敵国土を灰にして、国民丸ごと絶滅収容所送りにしている。ナチスなんだよ!!今作のラストは、いわばアウシュヴィッツでヒトラーがラビやゾンダーコマンドと肩組んで笑顔で終わってるようなものだ。
 理屈がどれだけ高潔だとしても、魂の部分で人は人を許せるのか?ロック部族は許すにしても、「バーブだけは殺してぇ」と思うのが人情ではないのか?


⑨結びに:二つの解決法
 とはいってもファミリー映画、バーブを八つ裂きにして死体を豚に食わせるのは無理だ。ここで提示したい解決法が二つ、「償い」若しくは「犠牲」だ。
 一つ目が戦後復興だ。『Wall-e』という大傑作ピクサーアニメがある。あれも、ラストで「汚染されつくした母なる地球を再建する」というかなりの理想論を打ち上げる。だがエンドクレジットの中で、不毛の大地で水を作り、種を育て、緑を増やす過程がディティール豊かに示されるため机上論で終わらない。
 それに倣って、戦後復興の画をEDクレジットに入れるべきだったと思う。折角、クラシック族の村を訪れた際「わたし一人でも建て直すよ…」と健気な決意をするフルートを出したのだ。フルートに指揮されバーブ直々に瓦礫を運び、再建途中のバロック建築が遠景に映る…こんなショットがあれば印象も違ったのだが。

 もう一つが犠牲だ。別にバーブの命でなくとも良い。例えば、エレキギターにとても愛着を持たせるキャラにする。そうすれば「悪意で他者を迫害するのではなく、ロックが好き過ぎるだけ」な性格付けにもなる。ラスト展開で6本の弦が揃ったギターを割るシーンがあるのだから、それで喪失とすればいい。ラスト曲のインターバル辺りで、ポピーが「壊してごめんね」と、バーブに残骸を渡す。バーブはぐっと哀しみを堪える表情し、それでも手を差し出し握手する。そうすれば、(被害の大小はあれ)痛み分けの形になる。
 理屈では仲直りは簡単だ。だが、人は折りに触れ過去を振り返り、心にさざなみは立つ。それでも不快さを打消し、笑顔を作り「続ける」。不断の努力こそが、人と人が仲良くすることの条件であるように、僕は思うのだけれどね。


 



 以上、5000字評でした。アニメーション技術の質は高いし、テーマもしっかり分かる。ただ、そこが若干机上論かなー…という気はしました。お子様なら問題なく楽しめるとは思います。

 来週(実質今週末)は鬼滅の刃夢幻列車編観るゾ~。ufotableの劇場作品は『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』含め全部リアタイ劇場で見てるので、ワイが観に行って酷評しても…良いやろ!!

 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年4月  >>
303112345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930123

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索