お安めホラー『ZOOM 見えない参加者』について結構語る
2021年1月24日 映画
ま、ダメ映画なんすけど、ホラー映画好きとしてはかなりの語りしろを感じたので長文レビューします。
粗筋 コロナ禍による都市ロックダウン下、暇を持て余す6人の男女はZOOMで交霊会を考案した。霊媒師の「霊に敬意を払え」の言葉に反し、作り話の幽霊を口にしたことで怪奇現象が起こり出す…。
①作品概説…もとい、フェイクドキュメンタリー史概括(長いよ!)
本作は全編ZOOM画面で進む異色のホラー映画。映画が68分とかなり短めのため、劇場鑑賞料金は一律1000円となっています。はい、映画の紹介は終わり!
それでは、ここからジャンルの歴史を辿っていきます。本で言えば『心霊ドキュメンタリー読本』辺りを参照して欲しいんですが、このジャンルの淵源は「モンド映画」に端を発します。
モンド映画とは、未開部族や東方国家など西欧先進諸国には縁遠い地域で行われる野蛮な習俗を撮影した「という体の」嘘ドキュメンタリー映画。観光映画、民俗ドキュメンタリーなどの系譜を組みながらも、徹底的に露悪さを追求したこのジャンルは大ヒットしました。
そのモンド映画を継いだのが「食人族」。モンドと違うのは、「死亡した撮影クルーの遺留フィルム」(という体の)映像を組み込んだ劇映画だということ。死亡若しくは失踪した撮影者の遺した本物の映像!という「ファウンドフッテージ形式」は後年までずっと受け継がれる人気設定となります。
そして、「ブレアウィッチプロジェクト」。「食人族」と違うのは、劇映画パートすら省き、手持ちカメラ視点一本に絞ったところ。この「POV映画(Point of View=一人称視点)」は2000年代に入り、「クローバーフィールド」「パラノーマル・アクティビティ」で一躍スターダムに。低予算ながらドル箱ジャンルになれると証明され、ホラー、モンスターパニック、ミリタリー、スリラー、SFなどあらゆるジャンルで使い倒されました。
往時に比べPOVも下火になりましたが、2010年代後半になって現れたのが「PC画面完結映画」ですね。撮影機材のみならず、リアルタイムコミュニケーション手段としてもすっかり浸透した時代になったからこそ、「PC上でのダベリ中に事件が起きる」という作りにもリアリティが出るようになった。有名どころでは「アンフレンデッドシリーズ」と「サーチ」(これ名作です!)などがあります。
さて、それでは何故長々とこのジャンルを語って来たか?それは、「フェイクドキュメンタリー」ジャンルの面白さには、本物らしさが必須なのを始めに理解して欲しいからです。
②フェイクドキュメンタリーの演出:人為性の排除
ブレアウィッチ続編の酷評回を参照して欲しいですが↓
https://magiclazy.diarynote.jp/201612171220536677/
このジャンルは「劇映画に近づけてはいけない」んですよ。見やすいように編集されていては、「本物の映像」の背後にある製作者の存在に気付いてしまうから。
対し今作『ZOOM』はどうか。発話者・怪異の当事者の画面が、事あるごとに拡大表示されるんですよ。そうだね、ドアップの方が見やすいね。でも、それって「誰がやってるの?」。
他にも、撮影者がカメラマン根性出し過ぎです。着席してPC画面を覗いている時なら兎も角、非常時になっても何でずっとPCorスマホを前に構えて動き続けるの?これ、『エルサレム(2015)』のように、グーグルグラスなどのウェアラブル撮影機材なら違和感なかった弱みなんですよ。でも片手塞いだ状態で、しかも撮れ高意識するようなアングルで動き続けるって、物凄い不自然じゃん?
③PC画面完結映画:人為性の創造
POVジャンルは観難さ=リアリティのもどかしさがある。でも、殊「PC画面完結映画」について言えば、抜け道があるんですよ。それが「誰かのPC画面上で、そいつが操作している」という演出。
実際にPCを操作しているという体なら、一人に注目して拡大画面を表示しても構わない。更に言えば、この演出は「感情」を表現出来さえする。誰かと通話しているのに別の人とチャットをすれば、「内心どうでも良い」感じを表現できる。こわごわカーソルが動けばじわじわした恐怖感を、てきぱきした画面処理なら閃きや決意を…。劇映画にはない制約を、却ってジャンルの強みに昇華出来るんです。そうしたジャンル的工夫を今作は全く行っていない。
④興味の持続
二つ目の欠点が、謎解き要素=興味の持続のなさ。ぶっちゃけ脚本が詰まらんです。
勿論ね、必須条件ではない。「ブレアウィッチ」「パラノーマルアクティビティ」のようにジャンル黎明期ならその演出だけで刺激的だし、「ハードコアヘンリー」のようにアクションが物凄ければお話は単純で良い。でも、2020年にもなってフェイクドキュメンタリーホラーって、古臭いんですよ。ジャンルの後発な以上、工夫が必要。
その癖、上述したように演出は並以下、おまけに散発的なショックシーンを繋ぐお話がない。「パラノーマルアクティビティ」だって、2以降は呪いの家の先住人や家系を巡る因縁ミステリーを見せて差別化していたのにね…。
⑤深みに嵌る
フェイクドキュメンタリーホラーに限った話じゃないんですが、幽霊ホラーの醍醐味は「ドツボにハマって選択肢が徐々に削られていく」怖さにあると思います。今作にはこれもない。
例えば「コンジアム」「スピーク」などのPOV廃墟ホラーは「撮れ高が貯まるまでは帰れねえ!」と意固地になった挙句、廃墟が異界化を進めて全滅していく。先に挙げた「アンフレンデッド」は、クラスメートの自殺をビデオチャットグループ内で責任の押し付け合いをし、幽霊の殺意から逃れようと反目し合うことで自滅していく。
それでは『ZOOM』はどうか。交霊会は確かに、集団ヒステリーが起きる空間ではあります。でも、画面の向こうで友人が絶叫してカメラアウトしたら、普通警察か救急呼びますよね?「ロックアウト」って戒厳令とは違うよ?
例えばここ、「〇〇は交霊会のしきたりを破ったから襲われた。私達は何とか穏便に霊に帰ってもらおう」と彼らなりの最善で「異常事態なのにビデオチャットを続ける」という不自然さを肯定しなければ。その場合はオカルトロジックなり謎解きが必要になるので、やっぱり興味の持続要素が必要になるワケですが…。
⑥『ZOOM』の見所
酷評してきましたが、唯一面白かったのは映画のラスト。68分では流石に良心が咎めるのか、メイキング映像が付いてるんですよ。これが抜群に良い。
撮影前にキャスト・クルーが実際にZOOM交霊会をやった映像なんですが、これがもう本当に劇映画とは程遠い。画面は14分割で各人の区別がつかない、マイク音質がまちまちでガラガラ声がする、緊張感の欠片もないバーチャル背景をつけた奴が居る、光源がロウソク一本なせいで鼻先しか見えない参加者が居る…。マジで、観づらい。でも、だからこそ本物っぽいんですよ。
この「リアル」の交霊会では、大した怪奇現象は起きない。霊媒師のカメラが不調になる、10秒間カメラがフリーズする、ロウソクの火が傾く…。でも「リアル」だからこそ怖い。
⑦結びに
「リアル」な霊現象が映ると何が怖いのか。現実に、怪奇現象が起きるということは、霊が実在している。すると、この交霊会を囲む人間(ZOOM参加者のみならず、映画スクリーンを通し「リアルタイム」で共有する観客)=我々のところに、ひょっとしたら幽霊が来るのではないか…。
そうした現実変容の恐怖こそ、フェイクドキュメンタリーホラーの醍醐味なのだ。そのことを今作の駄目さに(そして意図せぬ反面教師ぶりに)思い知らされた。
4000字評でした。ま、1000円映画なんであんま腹立てんなよ!(結論
粗筋 コロナ禍による都市ロックダウン下、暇を持て余す6人の男女はZOOMで交霊会を考案した。霊媒師の「霊に敬意を払え」の言葉に反し、作り話の幽霊を口にしたことで怪奇現象が起こり出す…。
①作品概説…もとい、フェイクドキュメンタリー史概括(長いよ!)
本作は全編ZOOM画面で進む異色のホラー映画。映画が68分とかなり短めのため、劇場鑑賞料金は一律1000円となっています。はい、映画の紹介は終わり!
それでは、ここからジャンルの歴史を辿っていきます。本で言えば『心霊ドキュメンタリー読本』辺りを参照して欲しいんですが、このジャンルの淵源は「モンド映画」に端を発します。
モンド映画とは、未開部族や東方国家など西欧先進諸国には縁遠い地域で行われる野蛮な習俗を撮影した「という体の」嘘ドキュメンタリー映画。観光映画、民俗ドキュメンタリーなどの系譜を組みながらも、徹底的に露悪さを追求したこのジャンルは大ヒットしました。
そのモンド映画を継いだのが「食人族」。モンドと違うのは、「死亡した撮影クルーの遺留フィルム」(という体の)映像を組み込んだ劇映画だということ。死亡若しくは失踪した撮影者の遺した本物の映像!という「ファウンドフッテージ形式」は後年までずっと受け継がれる人気設定となります。
そして、「ブレアウィッチプロジェクト」。「食人族」と違うのは、劇映画パートすら省き、手持ちカメラ視点一本に絞ったところ。この「POV映画(Point of View=一人称視点)」は2000年代に入り、「クローバーフィールド」「パラノーマル・アクティビティ」で一躍スターダムに。低予算ながらドル箱ジャンルになれると証明され、ホラー、モンスターパニック、ミリタリー、スリラー、SFなどあらゆるジャンルで使い倒されました。
往時に比べPOVも下火になりましたが、2010年代後半になって現れたのが「PC画面完結映画」ですね。撮影機材のみならず、リアルタイムコミュニケーション手段としてもすっかり浸透した時代になったからこそ、「PC上でのダベリ中に事件が起きる」という作りにもリアリティが出るようになった。有名どころでは「アンフレンデッドシリーズ」と「サーチ」(これ名作です!)などがあります。
さて、それでは何故長々とこのジャンルを語って来たか?それは、「フェイクドキュメンタリー」ジャンルの面白さには、本物らしさが必須なのを始めに理解して欲しいからです。
②フェイクドキュメンタリーの演出:人為性の排除
ブレアウィッチ続編の酷評回を参照して欲しいですが↓
https://magiclazy.diarynote.jp/201612171220536677/
このジャンルは「劇映画に近づけてはいけない」んですよ。見やすいように編集されていては、「本物の映像」の背後にある製作者の存在に気付いてしまうから。
対し今作『ZOOM』はどうか。発話者・怪異の当事者の画面が、事あるごとに拡大表示されるんですよ。そうだね、ドアップの方が見やすいね。でも、それって「誰がやってるの?」。
他にも、撮影者がカメラマン根性出し過ぎです。着席してPC画面を覗いている時なら兎も角、非常時になっても何でずっとPCorスマホを前に構えて動き続けるの?これ、『エルサレム(2015)』のように、グーグルグラスなどのウェアラブル撮影機材なら違和感なかった弱みなんですよ。でも片手塞いだ状態で、しかも撮れ高意識するようなアングルで動き続けるって、物凄い不自然じゃん?
③PC画面完結映画:人為性の創造
POVジャンルは観難さ=リアリティのもどかしさがある。でも、殊「PC画面完結映画」について言えば、抜け道があるんですよ。それが「誰かのPC画面上で、そいつが操作している」という演出。
実際にPCを操作しているという体なら、一人に注目して拡大画面を表示しても構わない。更に言えば、この演出は「感情」を表現出来さえする。誰かと通話しているのに別の人とチャットをすれば、「内心どうでも良い」感じを表現できる。こわごわカーソルが動けばじわじわした恐怖感を、てきぱきした画面処理なら閃きや決意を…。劇映画にはない制約を、却ってジャンルの強みに昇華出来るんです。そうしたジャンル的工夫を今作は全く行っていない。
④興味の持続
二つ目の欠点が、謎解き要素=興味の持続のなさ。ぶっちゃけ脚本が詰まらんです。
勿論ね、必須条件ではない。「ブレアウィッチ」「パラノーマルアクティビティ」のようにジャンル黎明期ならその演出だけで刺激的だし、「ハードコアヘンリー」のようにアクションが物凄ければお話は単純で良い。でも、2020年にもなってフェイクドキュメンタリーホラーって、古臭いんですよ。ジャンルの後発な以上、工夫が必要。
その癖、上述したように演出は並以下、おまけに散発的なショックシーンを繋ぐお話がない。「パラノーマルアクティビティ」だって、2以降は呪いの家の先住人や家系を巡る因縁ミステリーを見せて差別化していたのにね…。
⑤深みに嵌る
フェイクドキュメンタリーホラーに限った話じゃないんですが、幽霊ホラーの醍醐味は「ドツボにハマって選択肢が徐々に削られていく」怖さにあると思います。今作にはこれもない。
例えば「コンジアム」「スピーク」などのPOV廃墟ホラーは「撮れ高が貯まるまでは帰れねえ!」と意固地になった挙句、廃墟が異界化を進めて全滅していく。先に挙げた「アンフレンデッド」は、クラスメートの自殺をビデオチャットグループ内で責任の押し付け合いをし、幽霊の殺意から逃れようと反目し合うことで自滅していく。
それでは『ZOOM』はどうか。交霊会は確かに、集団ヒステリーが起きる空間ではあります。でも、画面の向こうで友人が絶叫してカメラアウトしたら、普通警察か救急呼びますよね?「ロックアウト」って戒厳令とは違うよ?
例えばここ、「〇〇は交霊会のしきたりを破ったから襲われた。私達は何とか穏便に霊に帰ってもらおう」と彼らなりの最善で「異常事態なのにビデオチャットを続ける」という不自然さを肯定しなければ。その場合はオカルトロジックなり謎解きが必要になるので、やっぱり興味の持続要素が必要になるワケですが…。
⑥『ZOOM』の見所
酷評してきましたが、唯一面白かったのは映画のラスト。68分では流石に良心が咎めるのか、メイキング映像が付いてるんですよ。これが抜群に良い。
撮影前にキャスト・クルーが実際にZOOM交霊会をやった映像なんですが、これがもう本当に劇映画とは程遠い。画面は14分割で各人の区別がつかない、マイク音質がまちまちでガラガラ声がする、緊張感の欠片もないバーチャル背景をつけた奴が居る、光源がロウソク一本なせいで鼻先しか見えない参加者が居る…。マジで、観づらい。でも、だからこそ本物っぽいんですよ。
この「リアル」の交霊会では、大した怪奇現象は起きない。霊媒師のカメラが不調になる、10秒間カメラがフリーズする、ロウソクの火が傾く…。でも「リアル」だからこそ怖い。
⑦結びに
「リアル」な霊現象が映ると何が怖いのか。現実に、怪奇現象が起きるということは、霊が実在している。すると、この交霊会を囲む人間(ZOOM参加者のみならず、映画スクリーンを通し「リアルタイム」で共有する観客)=我々のところに、ひょっとしたら幽霊が来るのではないか…。
そうした現実変容の恐怖こそ、フェイクドキュメンタリーホラーの醍醐味なのだ。そのことを今作の駄目さに(そして意図せぬ反面教師ぶりに)思い知らされた。
4000字評でした。ま、1000円映画なんであんま腹立てんなよ!(結論
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