入れ替わりホラー映画『ザ・スイッチ』についてさくっと語る
2021年5月5日 映画
粗筋 高校生のミリーは複雑な家庭事情に学校でのイジメと不幸続き。ある晩、街を騒がす連続殺人鬼ブッチャーに襲われ、胸に短剣を突き立てられた。ところがその短剣「ラ・ドーラ」には古代の魔法がかけられていて、翌朝目覚めると二人の体は入れ替わっていた…。
①作品概説
低予算で高収益を上げるホラーを生み出し続ける制作会社ブラムハウスと、あの「ハッピーデスデイ」のクリストファーランドン監督が再び手を組んだ。
「ハッピーデスデイ」は死に戻り型SFとスラッシャーのジャンルミックスだったが、本作はボディスワップ(入れ替わり)とスラッシャーのジャンルミックス作品となる。主演は人気コメディ俳優のヴィンス・ヴォーンに、「スリービルボード」の好演が記憶に新しいキャスリン・ニュートン等。
②ザ・スイッチの魅力
今作には映画的な面白さが多数あります。「ジェイソンシリーズ」「ハロウィン」「スクリーム」などのスラッシャー映画パロギャグ、ジャンルミックス要素、入れ替わりギャグに必須の演技力(最近だと「ジュマンジ」辺り)など…。ですが、1点特筆するならば「キャラクター描写の丁寧さ」こそが最大の魅力でしょう。
本作においても、ミリーのパーソナルな部分は物語のテンポを削ぐことなく成長要素として配置されています。父親の死と母親との確執、学校でのイジメ、淡い恋心…。回想を一切挟まず、会話の中で(しかもハプニングや説得などの機能を持たせつつ)キャラクターに深みを持たせる手腕は流石のランドン監督ですね。
③ボディスワップジャンル
はい、褒めポイント終わり。こっから貶すよ!この映画、ボディスワップの肝所外してんの!
個人的に、ボディスワップジャンルの面白さは「異なる環境への順応」過程にあると思います。日本人なら誰でも知ってる「君の名は。」挙げましょうか。都会男子の瀧と田舎女子の三葉の入れ替わり。適度なエロコメを挟みつつも互いの境遇・性差を知り、非日常に慣れていく。ギャップ・ハプニング・成長の欲張りセットなワケです。
「君の名は。」はラブコメですが、本作のようなボディスワップスリラーにおける「順応」とは何か。それは「追い詰め合い」なんですよ。特に善人と悪人がスイッチする場合はそうです。善人の体を手に入れた悪人は、その立場を利用して悪事をやってのける。一方、悪人の体に入った善人は無実の追及を受け難儀するが、悪人社会orスキルを活かして情報を集め悪人を追う。だがそれが悪人にも知られ…といった具合に。
それでは今作なんですが…入れ替わった二人は普段と同じことしかしないんですね。これは面白みがない。ミリーの体に入ったブッチャーは空気を吸う感覚で人を殺す…殺人自体は良いんですけど、全部腕力!
赤いレジャージャケットにブルージーンズの出で立ちのハクいスケなんですよ?色香で惑わせてから殺してくれよ!(M豚感)。トイレの個室に誘うとか、凶器を隠した車のバックシートに連れていくとか、そういう「腕力は弱いが性的魅力を武器にして」殺す悪女っぷりがない。毎回正面からメンチ切って突撃していく。
一方ブッチャーの体に入ったミリーも、目覚めて事態を認識した途端親友らに会いに行き元の仲良しチームに戻る。腕力の使い方を徐々にマスターするだとか、ブッチャーのねぐらで彼の殺人習性を捜索するといった下りがない。
④奇想は美徳か?
と語るように、ランドン監督は本作の執筆中意図的に入れ替わり映画を避けていたという。…志は立派だと思うけど、とりわけジャンルミックス・マッシュアップを目的とした映画でその姿勢ってどうなんかな?「型を知って型破り、知らぬは型無し」とも言うように、基本を認識するところから脱構築は始まるものじゃないかな。
ランドン監督が唯一好きな入れ替わり映画として挙げた「フェイス/オフ」はまさに「追い詰め合い」映画だった。今作でこれが成立しなかった最大の要因って、ブッチャーを頭アッパラパーの殺人モンスターに設定したことにあると思う。ひとくちに殺人鬼と言っても、社会生活を営む裏でシリアるキラーサイコパスでも成り立つ筈。
そういう知能犯要素がないから、ブッチャーを追う下りが珍獣捕獲と変わらないのよね。これは入れ替わりジャンルとしてはやはり失敗だったと思う。
⑤入れ替わり解除
入れ替わりリミットの土壇場でブッチャーを騙す下りがもう本当に雑。ここに異論を唱える人は流石に一人も居ない筈(パンフのライターですらバカにしてたし)。
解除の儀式は入れ替わりが発生してから1日だけ。ミリー(ブッチャーの体)はブッチャー(ミリーの体)を何とか追い詰め馬乗りになるが、そのとき腕時計のアラームが鳴る。24時を過ぎたことに高笑いするブッチャーだが、そのときミリーは悟る。「そうだわ!時計台の鐘が鳴っていない。この時計は心配性のブッカーが5分早めておいてくれたんだ、だからまだ24時を過ぎていない!」そう言い短剣を突きさすことで、儀式を完遂した…。んだけど、待てよおい。
先ず大前提として、台詞で全説明するとかありえないからね?それと、ブッチャー(ミリーの体)の腕時計を鳴らすべきでしょ。追手側の時計なんて細工を疑って当然じゃん?「入れ替わり前で細工しようのないミリーの体についた時計」が鳴るからこそ、ブッチャーは油断して抵抗を止めるんじゃないの?
この「5分早め」ロジック自体は、一応伏線付いてるんです。入れ替わりの前の日、ミリーの片想い(実は両想い)相手のブッカーが「時計を5分早めておくと、得をするよ」とアドバイスしてくれていた。ならさぁ!入れ替わる晩に、ミリーが時計を弄ってから床に就く下りを何で入れないの?そうすれば2段構えの伏線になるし、ブッチャー側も知る由がなく油断する理屈になる。
それなのに映画と来たらミリーが独り合点した挙句、台詞でべらべらネタ晴らしをするだけ。ツイスト利かせたかったんだろうけど、理屈としても映像としても心底ダサい上に蛇足だよ。
⑥結びに
ツッコミたいところはまだある!失敗作の「ハッピーデスデイ2U」と同じで、現実的には問題が解決してないところ!ミリーの体を借りたブッチャーが電ノコやガラス瓶など思いっきり指紋のつく方法で5人惨殺してんの!折角元の体に戻っても、即日タイーホで禁固150年食らうよね!(そういう意味でも知能犯タイプにしなかったのは間違いじゃね?)。
でも、ブラムハウスってこんなもんですよ。
https://magiclazy.diarynote.jp/202011100043418635/
https://magiclazy.diarynote.jp/202012282108261830/
上記2作しかり、詰めがはっきり甘い映画が多い(『透明人間』のような無欠の傑作は例外)。
でも、決して嫌いになれないのは社会風刺やジャンルミックス、キャラクター成長譚など骨格がしっかりしてるから。「ホラーなんてこんなもの」という観客の予想を超えてくる。これもまた、映画の楽しみだよね。
3500字評でした。
良く出来てるし、トータルで言えば好きな方ですよ?でも『透明人間』と同列に語られると、おじさんちょっと腹立つかな…(イキリオタク)。
①作品概説
低予算で高収益を上げるホラーを生み出し続ける制作会社ブラムハウスと、あの「ハッピーデスデイ」のクリストファーランドン監督が再び手を組んだ。
「ハッピーデスデイ」は死に戻り型SFとスラッシャーのジャンルミックスだったが、本作はボディスワップ(入れ替わり)とスラッシャーのジャンルミックス作品となる。主演は人気コメディ俳優のヴィンス・ヴォーンに、「スリービルボード」の好演が記憶に新しいキャスリン・ニュートン等。
②ザ・スイッチの魅力
今作には映画的な面白さが多数あります。「ジェイソンシリーズ」「ハロウィン」「スクリーム」などのスラッシャー映画パロギャグ、ジャンルミックス要素、入れ替わりギャグに必須の演技力(最近だと「ジュマンジ」辺り)など…。ですが、1点特筆するならば「キャラクター描写の丁寧さ」こそが最大の魅力でしょう。
「監督作へのアプローチでまず僕が拘るのは、エモーショナルな部分だ。」と語るように、監督はホラー映画の登場人物を記号で終わらせない。過去作「ハッピーデスデイ」が上手く行っていたのもここです。「やりマンブロンド」というホラー映画で絶対に死ぬ設定を逆手に取り、主人公に死に戻りをさせる。その煉獄の中で彼女は自分の非を直視し家族との折り合いをつけ、きちんと成長を遂げ殺人鬼との対峙を果たす。映画冒頭では好感度最悪だった筈なのに、観客はいつの間にか応援する側に回ってしまうのです。
「80年代や90年代初めのホラーや殺人鬼の映画は、登場人物のパーソナルなドラマをちゃんと描いていないものが多い…」
本作においても、ミリーのパーソナルな部分は物語のテンポを削ぐことなく成長要素として配置されています。父親の死と母親との確執、学校でのイジメ、淡い恋心…。回想を一切挟まず、会話の中で(しかもハプニングや説得などの機能を持たせつつ)キャラクターに深みを持たせる手腕は流石のランドン監督ですね。
③ボディスワップジャンル
はい、褒めポイント終わり。こっから貶すよ!この映画、ボディスワップの肝所外してんの!
個人的に、ボディスワップジャンルの面白さは「異なる環境への順応」過程にあると思います。日本人なら誰でも知ってる「君の名は。」挙げましょうか。都会男子の瀧と田舎女子の三葉の入れ替わり。適度なエロコメを挟みつつも互いの境遇・性差を知り、非日常に慣れていく。ギャップ・ハプニング・成長の欲張りセットなワケです。
「君の名は。」はラブコメですが、本作のようなボディスワップスリラーにおける「順応」とは何か。それは「追い詰め合い」なんですよ。特に善人と悪人がスイッチする場合はそうです。善人の体を手に入れた悪人は、その立場を利用して悪事をやってのける。一方、悪人の体に入った善人は無実の追及を受け難儀するが、悪人社会orスキルを活かして情報を集め悪人を追う。だがそれが悪人にも知られ…といった具合に。
それでは今作なんですが…入れ替わった二人は普段と同じことしかしないんですね。これは面白みがない。ミリーの体に入ったブッチャーは空気を吸う感覚で人を殺す…殺人自体は良いんですけど、全部腕力!
赤いレジャージャケットにブルージーンズの出で立ちのハクいスケなんですよ?色香で惑わせてから殺してくれよ!(M豚感)。トイレの個室に誘うとか、凶器を隠した車のバックシートに連れていくとか、そういう「腕力は弱いが性的魅力を武器にして」殺す悪女っぷりがない。毎回正面からメンチ切って突撃していく。
一方ブッチャーの体に入ったミリーも、目覚めて事態を認識した途端親友らに会いに行き元の仲良しチームに戻る。腕力の使い方を徐々にマスターするだとか、ブッチャーのねぐらで彼の殺人習性を捜索するといった下りがない。
④奇想は美徳か?
「似た世界観の作品が存在するときは、ほかの人の作品で脚本が汚染されないように気を付けている」
と語るように、ランドン監督は本作の執筆中意図的に入れ替わり映画を避けていたという。…志は立派だと思うけど、とりわけジャンルミックス・マッシュアップを目的とした映画でその姿勢ってどうなんかな?「型を知って型破り、知らぬは型無し」とも言うように、基本を認識するところから脱構築は始まるものじゃないかな。
ランドン監督が唯一好きな入れ替わり映画として挙げた「フェイス/オフ」はまさに「追い詰め合い」映画だった。今作でこれが成立しなかった最大の要因って、ブッチャーを頭アッパラパーの殺人モンスターに設定したことにあると思う。ひとくちに殺人鬼と言っても、社会生活を営む裏でシリアるキラーサイコパスでも成り立つ筈。
そういう知能犯要素がないから、ブッチャーを追う下りが珍獣捕獲と変わらないのよね。これは入れ替わりジャンルとしてはやはり失敗だったと思う。
⑤入れ替わり解除
入れ替わりリミットの土壇場でブッチャーを騙す下りがもう本当に雑。ここに異論を唱える人は流石に一人も居ない筈(パンフのライターですらバカにしてたし)。
解除の儀式は入れ替わりが発生してから1日だけ。ミリー(ブッチャーの体)はブッチャー(ミリーの体)を何とか追い詰め馬乗りになるが、そのとき腕時計のアラームが鳴る。24時を過ぎたことに高笑いするブッチャーだが、そのときミリーは悟る。「そうだわ!時計台の鐘が鳴っていない。この時計は心配性のブッカーが5分早めておいてくれたんだ、だからまだ24時を過ぎていない!」そう言い短剣を突きさすことで、儀式を完遂した…。んだけど、待てよおい。
先ず大前提として、台詞で全説明するとかありえないからね?それと、ブッチャー(ミリーの体)の腕時計を鳴らすべきでしょ。追手側の時計なんて細工を疑って当然じゃん?「入れ替わり前で細工しようのないミリーの体についた時計」が鳴るからこそ、ブッチャーは油断して抵抗を止めるんじゃないの?
この「5分早め」ロジック自体は、一応伏線付いてるんです。入れ替わりの前の日、ミリーの片想い(実は両想い)相手のブッカーが「時計を5分早めておくと、得をするよ」とアドバイスしてくれていた。ならさぁ!入れ替わる晩に、ミリーが時計を弄ってから床に就く下りを何で入れないの?そうすれば2段構えの伏線になるし、ブッチャー側も知る由がなく油断する理屈になる。
それなのに映画と来たらミリーが独り合点した挙句、台詞でべらべらネタ晴らしをするだけ。ツイスト利かせたかったんだろうけど、理屈としても映像としても心底ダサい上に蛇足だよ。
⑥結びに
ツッコミたいところはまだある!失敗作の「ハッピーデスデイ2U」と同じで、現実的には問題が解決してないところ!ミリーの体を借りたブッチャーが電ノコやガラス瓶など思いっきり指紋のつく方法で5人惨殺してんの!折角元の体に戻っても、即日タイーホで禁固150年食らうよね!(そういう意味でも知能犯タイプにしなかったのは間違いじゃね?)。
でも、ブラムハウスってこんなもんですよ。
https://magiclazy.diarynote.jp/202011100043418635/
https://magiclazy.diarynote.jp/202012282108261830/
上記2作しかり、詰めがはっきり甘い映画が多い(『透明人間』のような無欠の傑作は例外)。
でも、決して嫌いになれないのは社会風刺やジャンルミックス、キャラクター成長譚など骨格がしっかりしてるから。「ホラーなんてこんなもの」という観客の予想を超えてくる。これもまた、映画の楽しみだよね。
3500字評でした。
良く出来てるし、トータルで言えば好きな方ですよ?でも『透明人間』と同列に語られると、おじさんちょっと腹立つかな…(イキリオタク)。
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