公開前だけど『ザ・スーサイド・スクワッド』について大体全部語る
2021年8月6日 映画
粗筋 南アメリカの独裁島国で、クーデターが起きた。実験施設「ヨトゥンハイム」で異星生物を用いた「スターフィッシュ計画」が行われてきたが、新政府が悪用すれば世界の危機となる。
米政府高官は極悪受刑者14人を招集し、減刑と引き換えに島への潜入任務を言い渡す。逃亡すれば死、失敗しても死。自殺級の特殊部隊=スーサイドスクワッドの極秘ミッションが始まる。
①概説…もとい映画『スーサイド・スクワッド』
5年前、『スーサイド・スクワッド』の前評判は大変なものでした。『ニューヨーク1997』を集団にしたような過激なプロット、シックでダークな予告編はyoutubeでバカ受け。『バットマンVSスーパーマン』がコケた後でもあり、ヒーローの出ないアメコミ映画として期待されたものの…評判は芳しくありませんでした。
興行収入自体は悪くなかったものの、評価が低かったのはなぜか。大きく分けて、「テンポが悪すぎる」「ヴィランが主人公なのに善人過ぎる」の2点が挙げられますが、これには監督、デヴィッド・エアーの作家性が関わっています。
②デヴィッド・エアー
ストリート育ち、軍隊経験あり。彼の作品にはアウトローや末端の警官・軍人といった荒くれつわもの達が登場します。成程、そう聞けば『スーサイドスクワッド』の監督に適任に思える。しかし、彼は「ハードな環境に強くならざるを得なかった者達の悲哀、そこで培われた友情」を描く作家でもあるのです。これが作品との食い合わせを悪くした。
2000年代に再生を始めたアメコミ映画は、悩める超人を描いてきました。DC映画、ソニー映画の数々ですね。その流れを変えたのが、マーベルの『アイアンマン』でした。勿論ト二―も悩む。しかし彼は気持ちをカラッと切り替え、行動に移す。このネアカマインドが、新しかった。
しかし、『スーサイドスクワッド』は昔の路線に戻ってしまった。おまけに、先述した『BVS』も同じ路線だったにも関わらず、です。
極悪人集団だからこそ、ヒーローとは違った物語になる!そう観客は期待したものの、描かれるのは「俺もな、生い立ちが悪いだけやねん。善人やねん…」とウジウジした吐露。おまけにそれがキャラクター紹介のための回想、キャラの能力を測るための回想、一度心が折れ再起するための回想…といちいち回想形式が挟まる。
女々しい上に、テンポが悪い。DC映画の復権は、『ワンダーウーマン』まで待つことになったのです。
③ジェームズガン版『ザ・スーサイド・スクワッド』
昨日の日記にも書きましたが、エアー版スースクの逆張りです。エア―版の欠点を帳消しにする要素のてんこ盛りゆえ、前作に失望した人ほど評価は高いでしょう。以下、ジェームズ・ガンの経歴も踏まえつつ列挙していきます。
④きちんと死ぬ!
「エクスペンダブルズ」って、名前の割に味方が死なないって思いません?「スーサイド」の割に、エアー版も殆ど死人出ないですよね?ご安心下さい!『ザ・スーサイド・スクワッド』は、冒頭のつかみで沢山死にます!
溺死!顔面貫通!銃殺×3!焼死!頭爆発!設定は「14人」ですが、半数は開始10分で冗談のような死に方をします! 在庫処分を終えると、ガンお得意の80’ソングと共にOPクレジットへ。(" People who died"のチョイスは悪趣味ながら、ガン監督の脚本過去作『ドーン・オブ・ザ・デッド』でも使われた曲ですね)。
敵・味方共に命が軽く、その死に様もブラックな笑いに満ちている。冒頭はまさに「俺たちの見たかったスーサイドスクワッド」です。
⑤回想がない
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも言えることですが、キャラクターの過去は会話の中だ概ね済まされます。(ツイスト要素として時間軸の入れ替えが行われているためか)本筋の作戦遂行と無関係な回想を何度も挟むことはありません。話が前に進んでるよ!(進まないのが異常なんだけど)
⑥カラフル
出世作の『スーパー!』、説明不要の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の頃から、ガン監督の色使いは美麗です。極彩色の宇宙や爆発、都市空間やコスチューム。淡褐色な風景の中にも、原色や対比色を織り交ぜることで、目も彩な画面になる。(今回の予告編でも確認出来ます。2:04のハーレイクインカッコよくない?)
https://www.youtube.com/watch?v=eg5ciqQzmK0&ab_channel=WarnerBros.Pictures
今回、それが際立ったのはナイトシーンですね。闇に打ち沈んでいても、火焔、衣装、脳漿、照明と色彩に満ちている。エアー版とは段違い…ですね。
⑦グロ
敵は怪物ではなく人間の兵士、味方も容赦なく死ぬ。エアー版よりゴア描写は格段に増えましたが、「生理的嫌悪感の湧くグロ」もあったのは驚きですね。
世界のガン監督も、元はZ級ホラーのプロダクション「トロマ映画」出身。ヒトデ怪獣の体表がぱっくり割れ、ブツブツ組織の襞から小ヒトデが蜘蛛の子のように湧くシーンがあったり。ゾンビ化人間の生体実験シーンは、ナチ組織ということもあり『OVERLORD』を思い出しました。ラノベじゃないよ
https://www.youtube.com/watch?v=3i-ooDJMOzo&ab_channel=Movieclips
⑧武器の豊富さ
エアー監督は銃器のリアリティに拘る監督ゆえ、スースクのガンバトルは地味でした。一方ガン監督はアメコミ映画とオタク心を分かってらっしゃる。
主人公のブラッドスポートは、板状のガジェットを展開させて武器にする。1個では拳銃タイプだが、それを前に上部につぎ足すことでライフルやグレネードガンへと巨大化していく。
同じく遠距離タイプのピースメイカーも、手斧に拳銃、吹き矢や投げナイフといちいち殺し方が多彩。近接格闘でなくとも、バトルシーンに華があるのは良いね。
⑨ギャグシーン
…と、ここまで褒めて来ましたが、ここからは貶しタイムです。先ず一つ、ギャグのテンポが鈍重。
ガン作品の、「オフビートな笑い」自体は良いんですよ。下積み時代のショートブラックコメディ『PG Porn』の時代から、「噛み合わない会話でシュールな空気が流れる」笑いの名手だったから。
でも、『GOTG』では笑いは多様だった。相手の悪態に更なる軽口で応酬、頓珍漢な返答を説明口調で切り返す、更に外れたことを言い始めたら強引に会話を止める…など。
一方の『ザ・スースク』はズレたことを言う→引きの画で気まずい空気が流れる→数秒後にワンコメント、のワンパターン。とにかく会話テンポと編集が鈍重。
コロナ下とはいえ、ギャグ映画の試写開場で笑い声ひとつ起きないのってヤバくないですか?
⑩ギャグとシリアスの配分
これも上手くなかったですね。ギャグ交じりの映画って、序盤はギャグ>シリアスだったものが、後半に行くにつれシリアスの方が重めになっていくものなんですよ。
例えば、同じゴアギャグR指定ヒーロー映画の「デッドプール2」。あちらも序盤でタスクフォースXの面々が冗談のような死に方を遂げますが、後半ではちゃんとシリアスになる。
加え、中盤以降も「味方の死」で笑いを取るのは、物語のシリアスさを欠く愚作でしょう。善人の反政府ゲリラをそれと知らず虐殺した、ゲリラの協力者が死んだ際にネタにする、ラストバトルでトラウマを克服した主人公格が台詞途中でミンチになる…。
デップーにせよGOTGにせよ、中盤以降に味方(それも死に様で)弄りで笑い取りませんよ。敵の成敗方法がバカげているだとか、しぶとい相手がアホみたいな死に方をするだとか、「相手方」で笑いを取るもの。序盤のテンションのまま最後まで通したのは哀しいですね。
⑪シリアスの方向性
シリアス成分が、「米帝の卑劣な外交政策」「無辜の民を救う」とスクワッド面々の外部に置かれたせいで、成長物語として機能していない。
「GOTG」がまさにそうなんですけど、序盤に悪口の応酬をした台詞が、実は本人の鬱屈や過去のトラウマを反映したものなんですよ。ギャグと思えた裏にシリアスな苦しみがある、それを積み重ねていって「個人的な成長を遂げる」ことが「世界を救う」ことに直結する。小さな物語大きな物語、二つが呼応するからこそ、冒険作品は面白いと思うのです。
⑫結びに
僕は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が死ぬほど好きです。それゆえ、期待値を過剰に高くもうけ過ぎたがゆえに粗探しだったかもしれません。実際、rotten tomatosでは試写組は軒並み高得点を付けており、公開すれば恐らく好評を博するでしょう。
それにね、痛快なことが一つあった。「何だそのシロ(ブリーフ)は! キモイな!」「それは人種差別だぞ!」のギャグシーン。ポリコレバッシングでブッ叩かれ、一時はディズニーから完全に梯子を外されたガン監督が、ほかならぬ映画の中で人種ジョークをカマす。リベラルポリコレの権化たるディズニーでは、もう出来ない一幕だろうからね。
はい、4千字評でした。日記書くの久しぶりだし、パンフもなくて客観性に欠けるけど、事前レビューということでどうかおひとつ。
米政府高官は極悪受刑者14人を招集し、減刑と引き換えに島への潜入任務を言い渡す。逃亡すれば死、失敗しても死。自殺級の特殊部隊=スーサイドスクワッドの極秘ミッションが始まる。
①概説…もとい映画『スーサイド・スクワッド』
5年前、『スーサイド・スクワッド』の前評判は大変なものでした。『ニューヨーク1997』を集団にしたような過激なプロット、シックでダークな予告編はyoutubeでバカ受け。『バットマンVSスーパーマン』がコケた後でもあり、ヒーローの出ないアメコミ映画として期待されたものの…評判は芳しくありませんでした。
興行収入自体は悪くなかったものの、評価が低かったのはなぜか。大きく分けて、「テンポが悪すぎる」「ヴィランが主人公なのに善人過ぎる」の2点が挙げられますが、これには監督、デヴィッド・エアーの作家性が関わっています。
②デヴィッド・エアー
ストリート育ち、軍隊経験あり。彼の作品にはアウトローや末端の警官・軍人といった荒くれつわもの達が登場します。成程、そう聞けば『スーサイドスクワッド』の監督に適任に思える。しかし、彼は「ハードな環境に強くならざるを得なかった者達の悲哀、そこで培われた友情」を描く作家でもあるのです。これが作品との食い合わせを悪くした。
2000年代に再生を始めたアメコミ映画は、悩める超人を描いてきました。DC映画、ソニー映画の数々ですね。その流れを変えたのが、マーベルの『アイアンマン』でした。勿論ト二―も悩む。しかし彼は気持ちをカラッと切り替え、行動に移す。このネアカマインドが、新しかった。
しかし、『スーサイドスクワッド』は昔の路線に戻ってしまった。おまけに、先述した『BVS』も同じ路線だったにも関わらず、です。
極悪人集団だからこそ、ヒーローとは違った物語になる!そう観客は期待したものの、描かれるのは「俺もな、生い立ちが悪いだけやねん。善人やねん…」とウジウジした吐露。おまけにそれがキャラクター紹介のための回想、キャラの能力を測るための回想、一度心が折れ再起するための回想…といちいち回想形式が挟まる。
女々しい上に、テンポが悪い。DC映画の復権は、『ワンダーウーマン』まで待つことになったのです。
③ジェームズガン版『ザ・スーサイド・スクワッド』
昨日の日記にも書きましたが、エアー版スースクの逆張りです。エア―版の欠点を帳消しにする要素のてんこ盛りゆえ、前作に失望した人ほど評価は高いでしょう。以下、ジェームズ・ガンの経歴も踏まえつつ列挙していきます。
④きちんと死ぬ!
「エクスペンダブルズ」って、名前の割に味方が死なないって思いません?「スーサイド」の割に、エアー版も殆ど死人出ないですよね?ご安心下さい!『ザ・スーサイド・スクワッド』は、冒頭のつかみで沢山死にます!
溺死!顔面貫通!銃殺×3!焼死!頭爆発!設定は「14人」ですが、半数は開始10分で冗談のような死に方をします! 在庫処分を終えると、ガンお得意の80’ソングと共にOPクレジットへ。(" People who died"のチョイスは悪趣味ながら、ガン監督の脚本過去作『ドーン・オブ・ザ・デッド』でも使われた曲ですね)。
敵・味方共に命が軽く、その死に様もブラックな笑いに満ちている。冒頭はまさに「俺たちの見たかったスーサイドスクワッド」です。
⑤回想がない
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも言えることですが、キャラクターの過去は会話の中だ概ね済まされます。(ツイスト要素として時間軸の入れ替えが行われているためか)本筋の作戦遂行と無関係な回想を何度も挟むことはありません。話が前に進んでるよ!(進まないのが異常なんだけど)
⑥カラフル
出世作の『スーパー!』、説明不要の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の頃から、ガン監督の色使いは美麗です。極彩色の宇宙や爆発、都市空間やコスチューム。淡褐色な風景の中にも、原色や対比色を織り交ぜることで、目も彩な画面になる。(今回の予告編でも確認出来ます。2:04のハーレイクインカッコよくない?)
https://www.youtube.com/watch?v=eg5ciqQzmK0&ab_channel=WarnerBros.Pictures
今回、それが際立ったのはナイトシーンですね。闇に打ち沈んでいても、火焔、衣装、脳漿、照明と色彩に満ちている。エアー版とは段違い…ですね。
⑦グロ
敵は怪物ではなく人間の兵士、味方も容赦なく死ぬ。エアー版よりゴア描写は格段に増えましたが、「生理的嫌悪感の湧くグロ」もあったのは驚きですね。
世界のガン監督も、元はZ級ホラーのプロダクション「トロマ映画」出身。ヒトデ怪獣の体表がぱっくり割れ、ブツブツ組織の襞から小ヒトデが蜘蛛の子のように湧くシーンがあったり。ゾンビ化人間の生体実験シーンは、ナチ組織ということもあり『OVERLORD』を思い出しました。
https://www.youtube.com/watch?v=3i-ooDJMOzo&ab_channel=Movieclips
⑧武器の豊富さ
エアー監督は銃器のリアリティに拘る監督ゆえ、スースクのガンバトルは地味でした。一方ガン監督はアメコミ映画とオタク心を分かってらっしゃる。
主人公のブラッドスポートは、板状のガジェットを展開させて武器にする。1個では拳銃タイプだが、それを前に上部につぎ足すことでライフルやグレネードガンへと巨大化していく。
同じく遠距離タイプのピースメイカーも、手斧に拳銃、吹き矢や投げナイフといちいち殺し方が多彩。近接格闘でなくとも、バトルシーンに華があるのは良いね。
⑨ギャグシーン
…と、ここまで褒めて来ましたが、ここからは貶しタイムです。先ず一つ、ギャグのテンポが鈍重。
ガン作品の、「オフビートな笑い」自体は良いんですよ。下積み時代のショートブラックコメディ『PG Porn』の時代から、「噛み合わない会話でシュールな空気が流れる」笑いの名手だったから。
でも、『GOTG』では笑いは多様だった。相手の悪態に更なる軽口で応酬、頓珍漢な返答を説明口調で切り返す、更に外れたことを言い始めたら強引に会話を止める…など。
一方の『ザ・スースク』はズレたことを言う→引きの画で気まずい空気が流れる→数秒後にワンコメント、のワンパターン。とにかく会話テンポと編集が鈍重。
コロナ下とはいえ、ギャグ映画の試写開場で笑い声ひとつ起きないのってヤバくないですか?
⑩ギャグとシリアスの配分
これも上手くなかったですね。ギャグ交じりの映画って、序盤はギャグ>シリアスだったものが、後半に行くにつれシリアスの方が重めになっていくものなんですよ。
例えば、同じゴアギャグR指定ヒーロー映画の「デッドプール2」。あちらも序盤でタスクフォースXの面々が冗談のような死に方を遂げますが、後半ではちゃんとシリアスになる。
加え、中盤以降も「味方の死」で笑いを取るのは、物語のシリアスさを欠く愚作でしょう。善人の反政府ゲリラをそれと知らず虐殺した、ゲリラの協力者が死んだ際にネタにする、ラストバトルでトラウマを克服した主人公格が台詞途中でミンチになる…。
デップーにせよGOTGにせよ、中盤以降に味方(それも死に様で)弄りで笑い取りませんよ。敵の成敗方法がバカげているだとか、しぶとい相手がアホみたいな死に方をするだとか、「相手方」で笑いを取るもの。序盤のテンションのまま最後まで通したのは哀しいですね。
⑪シリアスの方向性
シリアス成分が、「米帝の卑劣な外交政策」「無辜の民を救う」とスクワッド面々の外部に置かれたせいで、成長物語として機能していない。
「GOTG」がまさにそうなんですけど、序盤に悪口の応酬をした台詞が、実は本人の鬱屈や過去のトラウマを反映したものなんですよ。ギャグと思えた裏にシリアスな苦しみがある、それを積み重ねていって「個人的な成長を遂げる」ことが「世界を救う」ことに直結する。小さな物語大きな物語、二つが呼応するからこそ、冒険作品は面白いと思うのです。
⑫結びに
僕は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が死ぬほど好きです。それゆえ、期待値を過剰に高くもうけ過ぎたがゆえに粗探しだったかもしれません。実際、rotten tomatosでは試写組は軒並み高得点を付けており、公開すれば恐らく好評を博するでしょう。
それにね、痛快なことが一つあった。「何だそのシロ(ブリーフ)は! キモイな!」「それは人種差別だぞ!」のギャグシーン。ポリコレバッシングでブッ叩かれ、一時はディズニーから完全に梯子を外されたガン監督が、ほかならぬ映画の中で人種ジョークをカマす。リベラルポリコレの権化たるディズニーでは、もう出来ない一幕だろうからね。
はい、4千字評でした。日記書くの久しぶりだし、パンフもなくて客観性に欠けるけど、事前レビューということでどうかおひとつ。
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