”スガ死ねウンコちんちん”ドキュメンタリー、『パンケーキを毒見する』をこき下ろす
粗筋 「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」で政治を問うてきたスターサンズが、遂に本丸に斬り込んだ。日本史上初、現職総理のドキュメンタリーを撮る!
 菅義偉総理にまつわるフッテージの他、著名人歴々へのインタビュー、笑いと物語性のある短編アニメーションが色を添える。分かりやすく間口の広い、「政治バラエティ」映画。


①前置き
 「政権批判(映画)の批判」をこれからするワケですが、僕は批判自体が間違っているとは思いません。まして、「安倍猊下菅閣下に拝跪!自民万歳!」って層でもありません。映画として、ドキュメンタリーとして低劣だと言いたいだけです。

 個人的には、「公正中立なドキュメンタリー」は存在しないと思っています。前は尊敬してた森達也監督が言うように、企画・撮影・編集に作り手の意図が入り込む時点で、出来上がったものは主観的になってしまう。以前に別の映画評で語ったように、プロパガンダ的であっても面白ければアリです。
https://magiclazy.diarynote.jp/202005272316572743/

 ただ、上記エントリには議論に先立ち、「そもそも知らない」状態が最悪な以上とも書きました。…いえね、コロナのご時世、スガが無能だなんて、流スガに皆分かり切ってるでしょ?多くの観客の精査・議論に堪え得るように、多少の客観性・中立性は確保すべきと思うのだが…。
 独善的!印象操作!下品!無思慮!浅識!駄目プロパガンダの見本市になってました。以下、観ててキッツい要素を列挙していきます。


②(一見)客観的:国会審議ビューイング
 前半の見せ場は、上西教授のパートだ。国営ヤクザ放送大手メディアでは編集されているせいで、まるで「ハキハキ答弁している」ように見える菅総理の姿。しかし上西教授は審議の映像をノーカットで見せ、その欺瞞を露にしていく。
 この”方向性”は間違いなく良い。学術会議任命拒否を、立憲民主が追求する。ところがスガはトートロジーに終始するのみ。追求が鋭くなると後ろの席に答弁書を出させ、カンペ丸読みでどうにかその場を切り抜ける。ノーカットでなら、無策と疚しさがはっきりするのだ。

 ところが本作、そこに「解説」を過剰に投入してしまう。同パートの前半は3分生映像→1分解説をカットバックさせており、まだ見やすい。ところが後半に行くにつれ、後付けはヒートアップ。テロップ、矢印、SE、ヤジ吹き出しが付加され、終いにはリアルタイムコメンタリーとなる。熱の入りように、監督は「俺もスガを追い詰めてるんだ!」と自己陶酔してるのだろうか。だが、ドキュメンタリーとしてこれは上手くない。


③(一見)客観的:国会審議の「本当の」姿
 そもそもの問題は何だったか?NHKメディアの国会映像は「編集されて、歪んでいる」のが問題だった筈だ。だからこそ、長尺の「本当の」姿を見せることに意味があった。ところが、当の映画の作り手たちもまた、映像に加工を施す。これでは、同じレベルにまで堕してしまう。

 ドキュメンタリーは、映画は観客に解釈と思考を促させる芸術だ。何も「完全無編集にしろ」とは言わない。ただ、さりげなく意図を忍ばせるのが上策だ。
 重低音や環境音をごく僅かに付け、圧迫感を煽る。真を突くコメントを最後にぼそっと呟き、数秒の暗転を挟む。目元の見えない口元のアップで非人間性を、或いは目元のみのアップで腹黒さを演出する…。フッテージの繋ぎ合わせ方で意味を持たせるのが上品で陰険なやり口なのだが…さっすがテレビ屋出身!映画文法なんざ関係ねェやな!


④(一見)実証的:数値データ
 コミカルな調子で始まる映画も、最後は悲愴な空気を帯びて終わる。日本は先進国トップG7の中で最低の国、その証左として各種データが列挙されるのだが…これがもうお粗末。
 PCR実施率が低い…これをスガの失政というのは間違いない。だが、平均賃金、幸福度、男女平等、自殺率などの項目でさえ「これも、現政権が招いたことだ」と一義的に断言するのには首肯しかねる。中でも、自殺率のデータには驚いた。2015年のデータを使っている上に、同一グラフ内で抽出年次が違うのだ(諸外国が15年、日本は14年といった具合に)。

 スガを叩くために6年前のデータを使い、あまつさえ(グラフ上の落差をくっきりさせるために)数値さえ弄る。これは、ジャーナリズム精神に悖るという同義以前の問題だ。映画本編で「スガは隠蔽・工作をする輩だ!」と糾弾する、当の作り手が同じ真似をする。そのうえで杜撰な改竄跡を放置するその無思慮さが理解できないのだ。
 因みに「男女不平等」データを挙げるわりに、この映画の女性演出はミソジニー的だ。スガの自伝をうっとり読む、スガの叩き上げ人生を無邪気に褒めるのは、決まって若い女性。「スガを賛美するのが馬鹿女」って言いたいのかな?


⑤ブーメラン論法:前川元事務次官の叫び
 お前が言うなの別事例として、前川元事務次官のインタビューがある。「加計告発」によってスガの側近から圧力を受け、また「出会い系バー」を巡るメディアバッシングを受けた。前川氏は「人格攻撃によって、個人の発言や実績が破壊されるのはあってはならない」と悲痛に叫ぶ。
 確かに正論だ。「出会い系バーは視察であり疚しい意図はなかった」とのガバガバ答弁も呑み込もう。でもねこの映画…「昔の義偉(よしひで)さん、イケメンだったのね♡」「スガの博打政治は失敗続き!ギャハハ!」って人格攻撃を最前までやってから前川パートにつなぐのよ。

 嘲りパートも、前川パートも削らなくて良い。ただ、両者の間に最低20分くらいの時間空ければ良いだけじゃない。上述した通り、フッテージの繋ぎ方次第で印象はガラリと変わるのがドキュメンタリーというもの。それを理解出来てないのは…ちょっと心配になる。


⑥メディア絶対視:赤旗と大手メディア
 スガは無能である。無能の無法は許されない。メディアは権力監視を果たすべきだ、との論調に後半入っていくのだが…僕はここで引っ掛かりを覚えた。
 
 スガの闇資金問題に対し、しんぶん赤旗が舌鋒鋭く切り込むパートは良い。決済印付の収支報告書を集め、SNS投稿から本来の経費を弾き出す…と地道な証拠集めをするブンヤ仕事が観られるだけではない(何せ、「新聞記者」2作にはついぞなかったお仕事ぶりだからな!)。しんぶん赤旗に奉職する記者の葛藤を描いていたからだ。
 赤旗に就職する条件として、共産党員にならねばならない。しかし、スポンサーの意向に左右される他メディアに行くくらいなら、購読料のみで独立経営される赤旗に行く方がジャーナリストとしてマシと若干の難渋を滲ませる。アンビバレントな感情を記者が持ち、それを映像として見せている点は、今作の数少ないフェアな要素だろう。

 それでは、何故大手メディアは赤旗のようなスクープを書けないのか。それはスガから圧力が掛かるせいだ、と言うのだが…。


⑦メディア絶対視:スガはビッグブラザーか?
 私はメディアの人間ではないので、業界の慣行・不文律を知らない。だが、仮に新聞社・メディア全体が一枚岩だとしても、権力の圧力に負けるものなのだろうか?スガの圧力が事実にせよ、メディア側が、少なくともデスク以上が権力に阿るからこそ、メディアが腐敗するのではないか?それを今作は全く映さない。その偽善が鼻に付くのだ。
 元経産官僚の古賀氏は語る。「官邸から報ステ幹部に圧力ショートメールが来て、私は番組を降板させられた」。ンならそれを映せや!ドキュメンタリーやぞ!編集会議の議事録、通話記録、メール、そうした「忖度して内々で報道を取りやめた事例」の記録が一切出てこない。俺たち正しいんだけどなー!!スガの圧力凄くてなー!!かーツレーわー!!とだけ言われても…。

 頓珍漢な話と言えば、スガ=大本営説という珍パートがある。
情報部:論理的データで分析(≒メディア)
作戦部:情緒を優先し圧力(≒スガ)
と二次大戦期と現代をリンクさせ、語る。「日帝は紙の配給を止めるなど、物理的な圧力をかけた。現代は同じことが起きている」、と語るのだが…。えっ、スガってサーバとか輪転機とか放送免許を抑えられんの?しかも「これが圧力の証拠だ!」と意気揚々示されるのが、ワクチン報道に関するアベ、役人の「抗議します」tweet画像2通だけ…。そっかTwitter最強だったかー!!せめて後日届く正式書面の方映してくれー!


⑧アニメーションの出来の悪さ
 今作への否定レビューの中で、とりわけ世評が悪いのが劇中5本流れる風刺短編アニメだ。

 僕はドキュメンタリー映画内のアニメには、2つの機能があると考えている。
 一つは、過去作を引用し持論の「代弁」をさせること。冒頭に挙げた『21世紀の資本』はこのタイプで、監督や出演者の口から言わないことで「普遍的真理」「社会通念」であるように演出する。
 もう一つは、新作アニメを用い、扱う題材の経緯・内幕などを「説明」する機能。本作はこちらに近いのだが…とにかく余計なものが多すぎる。

 先ず、テンポが鈍重なうえに説明過多。井上監督はテレビ屋さんゆえ知らんのだろうが、映画は暗闇で大画面を眺めるぶん集中できるのだ。寓話で簡略化普遍化する、オチを明かさず暗転や風景映像に移り、時間差で観客にじんわりと思考を促す…といったように。
 「政治家は二枚舌だから地獄の舌抜きが効かないー!」「なんとー!アベは自民党の親玉だから、抜いても抜いても無限に生えてくる―!」…って、画面まんまを朗読するの心底ダサいから止めて?多弁が利くのって、早口かつ軽妙なジョークを交えるときだけだからね?「ボウリングフォーコロンバイン」の、白人銃信仰のアニメ観てから出直しな?

 100歩譲って、これがドキュメンタリーとは無関係に「アニメ単体として楽しむ」代物としよう。監督は恥知らずにも「モンティパイソン」意識と言ってるしね。
 でも作り手には!テリーギリアムの芸術性やセンスも!「サウスパーク」の激烈な批評性も!「シンプソンズ」の物語性や台詞の鋭さも、ねえよ!風刺アニメ舐めんな!


⑨結びに
 この映画、炎上したんですよ。スガどうこうじゃなく、社長の発言で。
https://www.banger.jp/movie/61751/

僕は鬼滅もエヴァも映画として好きじゃないし、作品の多様性はあって然るべきだと思う。でもこれ、(本来なら観られるべき良作なのに)って前提ありますよね?僕は、スターサンズの政治色が濃い作品はこれに当てはまらないと思う。
本筋キャラクターと絡まない五輪・学生運動をぶち込んで引き延ばした『ああ荒野』、ファンタジー陰謀の『新聞記者』、
https://magiclazy.diarynote.jp/202004070128144710/
スガは叩く一方で望月自身、東京新聞は神聖化する「i 新聞記者ドキュメント」…。ジャンル映画として、僕はどうしても出来が良いと思えないんですよ。


 それにね、この映画の誤りが一つ、公開後に明らかになった。横浜市長選です。
 劇中描かれるように、スガは横浜族議員の秘書からキャリアをスタートさせた。ハマの裏市長と恐れられたスガのホームグラウンドでさえも、彼を見捨てた。
 この映画は有権者を「凍えて死んでいく羊」と描いた。けれどコロナ禍で尻に火が付いた国民は、馬鹿なりにでも考えを持って行動出来る。そしてそれを導くのは、きっとこんな映画じゃない。






 はい、5千字評でした。今年ワーストです。
 くどいようだけど、政権批判を封じたいワケじゃない。多少偏ってても良い。この映画も、「スガがイメージ戦略で洗脳するなら、俺らもイメージで戦ってやる!毒を毒で制するんだ!」って客観視や開き直りがあれば、最後に許せたんでしょうが。

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