リーアム・ニーソン新作『マークスマン』をそこそこ褒める
 新春一発目の評からB級映画で。

粗筋 妻を亡くし牧場も奪われゆく老人、ジムはある日密入国者の親子に出逢う。後を追う麻薬カルテルとの銃撃戦となり、撃たれた母は息子ミゲルをシカゴに連れて行ってくれとの言葉を遺す。ジムとミゲル、二人は反発し合いながらも、追討から逃れる内に絆が芽生えていく…。



①『中年オヤジの逆襲アクションもの』
 一般(に見える)中年オヤジが、何故か超絶能力を発揮して巨悪を滅ぼす…。そんなB級アクションが、すっかり定番になりました。近年の大ヒットでは『ジョンウィック』や『イコライザー』などのシリーズがあります。

 中年オヤジの逆襲…似たような作品は、昔からありました。ただのコックが軍艦ジャック犯を抹殺する『沈黙の戦艦』や、ただの火災犯罪捜査官がコロンビアカルテルを撲滅する『コラテラルダメージ』などです。ただ…あれらの作品は、筋肉アクション止まりでした。シュワルツェネッガー・セガールのような強面筋肉達磨に、喧嘩を吹っ掛ける方が愚かというもの。そこに出てきたのが、あの『96時間』シリーズです。


②俳優リーアム・ニーソン
 リュックベッソン監督、リーアム・ニーソン主演の『96時間』。何が革命的だったかと言えば、主人公の佇まいでした。評論家の宇多丸いわく「子犬のような困り顔で、く~んとショボくれる」絶妙な顔つき。そんなどこにでもいるようなオッサンなのに、いざ非常事態となるや野菜を刻むような手際で悪党をブチ殺し出す。そのギャップ・若干のサイコパスっぽさが、作品の魅力となったのです。
 ジャンルを開拓したニーソンは以後、似たような映画に出ずっぱりになります。『ミッドナイトラン』『スノーロワイヤル』『ファイナルプラン』などなど…。


③『マークスマン』の印象
 そういうことで、今作にも『中年オヤジの逆襲アクション』ものを期待します。配給側も
的中率100%の男。狙う!撃つ!仕留める!

なんて惹句を付けてますしね。
 ところが本作…そういう雰囲気ではなかった。アクションは序盤とラストの僅か2点だけ、銃で倒すのも合計たった5人。その代わりに展開されるのは、老人と少年のロードムービー。期待したものとは違う、けれど見所はキチンとある映画でした。以下、今作の特長を述べていきます。


④視覚的説明
 ゴミ邦画や漫画アニメの評で散々言いましたが、映画における説明は直接台詞ではなく、映像的に提示すべきです。今作においては、腕の入れ墨、内通者との符牒、ジム&ミゲルの感情の変化などが台詞なきままに表現されます。
 情報量が多くなり幅が出る、その場の描写はあっさりだが余韻が残る、複数の意味を盛り込める…映像的な表現には様々な機能があります。ですが今作特有の機能としては、緊張感の持続でしょうか。車のナンバー、零れ落ちた地図、犬の散歩…ジムも慎重な男ではあるが、僅かづつ痕跡が残る。それを追討班のリーダー、マウリシオは拾い集め包囲網を狭めていく。緊張感を持続させる伏線が数珠繋ぎのように続いている御蔭で、全編に亘りヒリつくような空気がみなぎっているのです。


⑤カルテル描写
バカ右翼スタローンの作った『ランボー:ラストブラッド』と違い、
https://magiclazy.diarynote.jp/202007152247379167/
 カルテル描写が現実的ですね!
 米墨国境を越境する際は決して武器を携行せず、現地で装備人員機器をかき集める。車の登録、クレカ情報からどこを通過したのかを追跡する。国境警備兵、末端の警官など現地の協力部隊を使って、効率よく追い詰める…。
 しかも上記の映像的伏線が効いているから、ご都合主義にならない。クレカ履歴のハッキングは家探しシーンが、汚職警官に呼び止められるのはナンバープレートを見られるシーンが事前に描かれているので、リアリティレベルが下がることがない。


⑥ガキとの共闘
 壮年の男と子供のロードムービーと言えば、ガキはお荷物になるもの。ところが本作では、そこそこ活躍します。発砲による陽動、弾倉のイジェクトなど、中盤の訓練シーンが後半のアクションで機能する。しかも、ガキの成長物語を描くことが、ストーリー上でもう一つ機能を持っているのが憎らしかった。


⑦悪党、マウリシオ
 スタローンはバカ右翼なので、マフィアを浅薄な悪党に描きました。一方の今作は、彼を「ミゲルのダークサイド」として描いたのです。ハリウッド映画において、悪役を「主人公のダークサイド」とするのは定番ですが、サイドキック側の反面教師にしたのは斬新ですね。
 マウリシオは確かに、血も涙もない殺し屋です。と同時に、女性を眺める目線、勲章を大事そうにしまう仕草などで、どこか少年らしさも残されている。彼は最期、「こいつ(ミゲル)は俺と同じだ。(カルテルに入る)選択肢以外なかったんだ」とジムに語り掛けます。救済はされないけれど、悪党マウリシオの死に、一片の哀しさも湛えている。
 
 最悪な環境に居る人間でも、広い意味での「教育」によって悪事以外を選ぶことが出来る。このテーマ性は累犯社会・分断社会となった現代アメリカで有意義なメッセージでしょう。有色人種取り合えず皆殺しにするスタローンよりは遥かに。


⑧『マークスマン』のジャンル
 この映画は、ロバート・ロレンツ監督がインタビューで語るように『西部劇』です。辛い過去があり斜に構えた中年男が、初心な青年/少年に現実的でタフな生き方を教える。青年は窮地を脱し人生に意義を見出すが、その幸せの輪に中年男は入らず、独り去っていく…。致命傷を負った男が、死に様を見せずに立ち去るラストは、もろ『シェーン』『ワイルド・アパッチ』に酷似してますね。


⑨結びに
 ロバート・ロレンツ監督は、巨匠イーストウッド組出身の作家。そのイーストウッドの新作(そして現代西部劇でもある)『クライ・マッチョ』が来週末公開。この機会に、二人の作品を劇場で見比べてみるのはどうでしょうか?まあ…『クライマッチョ』の本国評価クッソ低いんだけどな!脚本酷いんだって!



 2500字評でした。坂のバンクを活かし「こちらからだけ見える狙撃ポイント」を見極める下りが現実的でカッコよかった。スコップを銃架に見立て、必殺の呼吸から狙撃開始するシーンも超良い。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索