思い出の映画100選 ~毒親映画~
思い出の映画100選 ~毒親映画~
 突発で始める映画100選企画、初回のテーマは毒親で。人格歪めた最大の要因であり、映画に耽溺(逃避)するきっかけもこれだからなー。



・キャリー,1976
 生物学者ドーキンスは名著『神は妄想である』で斯く語る。
宗教は、本来多様であるべき価値観を一つに固定する。のみならず、それを自分の子供に押し付ける。
そのため、子供たちに本来開かれるハズだった扉が閉ざされ、子々孫々まで継がれてしまう。

 戦後アメリカではキリスト教原理主義が幅を利かせてきたが、その弊害を描いたのが今作『キャリー』だ。キャリーの母は若くして妊娠し、男に捨てられたがために宗教に狂奔するようになった(原理主義派は”神に与えられた生命を弄ばない”=避妊をしないため、若年層の妊娠率が異常に高い)。その押し付けは娘の精神を蝕み、超能力として発現していく。
 この映画がもの哀しいのは、プロムでの一瞬の輝きがあるからだ。シシー・スペイセク演じるキャリーは、決して美人ではない。だが普段はしないお化粧をし、身嗜みを整えてプロムに臨む。千紫万紅の照明に照らされ、踊り続けるキャリーにエスコート役もときめいてしまう…。もしかしたらあり得たかもしれない「普通の幸せ」が垣間見せるからこそ、それに続く大虐殺シーンとの落差が際立つ。
 
 2013年のリメイクに足りないのはここだ。だってクロエ・モレッツ、美人過ぎんだもん。男が寄ってこないのは無理あるって。


・この子の七つのお祝いに,1982
「お父さんは私たちを捨てた悪い人。だから恨みなさい、憎みなさい、大きくなったら復讐するの…」。毒親に吹き込まれ続け、7つを迎えた日に目の前で壮絶な自殺を遂げられる娘…復讐鬼と化した岩下志麻の演技がまー凄い。
 岩下志麻と言えば、清張原作の『鬼畜』においても継子を虐め殺す怪演を遂げている。還暦過ぎても「アイドル役以外嫌ですからね!」と演技の幅を広げないY永S百合に煎じて飲ませてやりたい1作だ。


・ヘレディタリー,2018
 21世紀最高のホラーと称される、アリ・アスター監督作品。
 その魅力は、丹念に描写と伏線を積み重ねて提示される、逃れられぬ宿命観。母と息子を巡る、血も凍るようないがみ合いのシーン。(因みに、アリ・アスターの卒業制作は「父親でシコってたことをばれて、家庭が崩壊していく」物語である)
https://www.youtube.com/watch?v=7uWQVdNKUrk
だが最も心に残るのは、ラストにもたらされる奇妙な祝祭感だ。一家は全員死に絶えるが、悪魔側から見れば念願の依り代を得たことになる。最新作『ミッドサマー』にも通じる、価値観の変転と解放を描いた映画だ。


・葛城事件,2016
 今回紹介する映画の中で最もリアルで、最も空しい気持ちになる一作。
 上記3作と違い、今作の親は「イカれた」親ではない。ただ、家族の噛み合い方が上手くいかなかったのだ。一国一城を切り盛りしてきた昔気質の父親、子供を優しく見守るが誰にも強く出られない母親、父の云い分に従い続け潰れてしまう長男、父権的な父にも優秀な兄にも鬱屈をため続ける次男…。一人でなら狂わなかったかもしれないが、肌の合わぬ家族との摩擦で心が擦り切れ、孤独を深めてしまう…。
 この家族は誰にも罪がなく、そして罪深い。


・きっと、うまくいく,2009
 インド映画史に残る、傑作青春映画。
 理系最高格のインド工科大に通う3人が、自分らしい幸せを模索していく。その一人、ファルハーンは写真家になる夢を父親から固く拒絶されている。もちろん、父親の言い分に社会的な合理性はある。
 一つには、インドは学部差別が歴然としている。近年のインド映画のテーマとして”無職の大卒”がある。数学と機械工学はインド発展の要ゆえ引く手数多だが、人文科学は無用の長物扱いだ。ゆえに工学系、しかも工科大にまで行ってIT系に向かわないのは「まともな」人生ではない。
 もう一つには、カースト制の存在がある。カーストはヒンドゥー教の根幹を成す社会制度だ。本来階層別に峻別されていた就業だが、一流大学に合格すれば一流企業へのパスポートになる。そのためカースト低位の子供は、一族の期待を一身に背負い受験戦争へと突き進まされていく。そのため、インドの学生(受験のみならず就職活動に至るまで)へのプレッシャーは重く、受験生や工科大生の自殺率は異常に高い。

 それを踏まえてもなお、ファルハーンは父親に跪いて頼む。「これまでずっと父さんに従ってきた。でも、初めてやりたいことが出来た、後生だから、僕の夢を奪わないでくれ」、と。
https://www.youtube.com/watch?v=vWouk7Y38RE
 序盤で、プレッシャーに耐え兼ね自殺した先輩のジョイ・ロボが出ていたからこそ、了承を与えられる場面は感動的だ。僕はこのシーンを見るたび、親の理解を得られなかった自分と引き比べて泣いてしまう。他罰的で不健康な浸り方だが、あり得たかもしれない別の人生を思い描いてしまう。

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