2021年度下半期 印象に残った本その1
2022年3月9日 読書
読書録書くのも今回で最後か。今日はホラー紹介。
・角川ホラー文庫ベストコレクション 再生
・角川ホラー文庫ベストコレクション 恐怖 朝宮運河編 角川ホラー文庫
名作ホラーのアンソロジー。『再生』側は新しい作品が多いが、『恐怖』側は著名作家のホラー選集を再集録した形になるので、作品は古いものが多い。この作品チョイスに触れて、胸が熱くなるのを覚えた。
ホラーオタクの昔語りになるが、創刊30年目を迎える角川ホラー文庫にも歴史がある。最初期は鈴木光司『リング』瀬名秀明『パラサイトイヴ』に代表される、角川お家芸の小説×映画の連動期。
最盛期は日本ホラー小説大賞が隆盛だった時期で、貴志祐介、岩井志麻子ら強烈な作家を世に送った。またこの時期、小松左京、高橋克彦、赤川次郎ら大御所作家の傑作選を編むことも活発な時期だった。
低迷期を迎えるのがゼロ年代中頃から。Jホラーブームが去り、本屋での扱いも目に見えてパッとしなくなった。だが、この頃の同大賞で出てきた恒川光太郎、朱川湊人、田辺青蛙らの「優しく切ないキャラクター小説」造形は、後の門戸を広げた。
ルネサンス期は10年代から。ライト文芸に則ったホラーがレーベルから出されるようになり、「ホーンテッドキャンパス」「バチカン奇蹟調査官」など、長期シリーズ化していった。これらが文庫レーベルを救ったのは事実だが、「1本凄い小説を出す!」といった賞発足当時の流れとは全く異なる方向を向くこととなり、日本ホラー小説大賞は終わりを迎える。
前置きむっちゃ長くなりましたが、『恐怖』側は勃興期~最盛期の頃の角川ホラー文庫の匂いが感じられるんですよ。「くだんのはは」とか「緋い記憶」とかあったな、赤江瀑の純文学ホラー、森真沙子の少女幻想譚また読みたいな…とか。小学生の頃に背伸びして黒背表紙を繰った読書体験が蘇ってきて、何とも言えない気持ちになりました。
・異形コレクション 狩りの季節 井上雅彦監修 光文社文庫
書下ろしホラーのみで構成された幻想怪奇アンソロジー。復刻後も、定期的に刊行されていて何より。
勝手な持論だが、ホラー短編の主人公は従来「無個性」だったように思う。訪れた村の因習、降りかかる災厄を観察し体験して読者に届ける「眼鏡」の役割を果たすためだ。
それが(上述したライト文芸潮流にも関係するが)「キャラクター小説」化するようになった。異形コレクションシリーズでも、これほどキャラクター小説の多い巻はなかったように思う。
無論、キャラクター小説にも強みはある。人物同士の遣り取りや、伝奇小説的なアクション・退魔展開が作れるからだ。だが、「彼らは果たして生き残れるのか?」というハラハラ感は(シリーズ既読勢からすれば)ないのだ。そりゃだって、死んだらここで終わっちゃうから。
だが、キャラクター小説にも「ハラハラ感」の抜け道があるのがこれまた面白い。牧野修、平山夢明といったバイオレンス作家は、小粋な台詞をカマすアウトロー達がフツーに首や手足を引っこ抜かれて死ぬ話を書く。
或いは澤村伊智の場合は、(比嘉姉妹)シリーズ主要人物を短編では端役に置き、語り手を初出のキャラにすることで緊迫感を失わせない。語り手の正体は不明だが、読み進めるうちに「実は死んでいた」「呪いの道具だった」などの非劇的な結末を迎えさせるのだ。
斯様にして、ホラー短編も日々進化を続けていく。異形コレクションは、どうかどうかこのまま続いて欲しい。
・瞬殺怪談 死地
・瞬殺怪談 罰 平山夢明ほか 竹書房怪談文庫
最長2ページ見開きまで!1話30秒で読めるサックリ怪談シリーズ。10人による競作。
これまた勝手な持論で始めるが、実話怪談というのは、(僕が本を手に取り始めた90年代後半では)「誰かの恐怖体験を、そのまま聞き書きした」というオーソドックスなものが多かったように思う。ところが、上記2冊は、バリエーションに富んでいる。
例えば「呪いの石」というテーマがあるとしよう。これはフツーに書けば
となる。瞬殺怪談ではどう違うか?例えば、オチに捻りを加えるのだ。
こういった具合に。幽霊話だった筈が、語り手が逆襲する/呪いを転嫁させるといった「ヒトコワ」ネタに持っていくのだ。
或いは複数の無関係な事件を繋げ、都市伝説風に仕立てるものもある。
といった具合に。
他にも、(従来透明であるべき語り手が)多分に解釈を施して一種の説話譚にしたり、或いはラストの感想1文でオチをつけたり。
所詮は、人間が体験出来る恐怖なんて似たり寄ったりだ。それをいかに膨らませ、まとまりのある「お話」として提供できるか…怪談実話がつくづく「語りの文芸」であることを思い知らされた。読み捨て本ながら、いろいろ考えられる良い読書体験になった(ホラーオタク限定の思考回路
・角川ホラー文庫ベストコレクション 再生
・角川ホラー文庫ベストコレクション 恐怖 朝宮運河編 角川ホラー文庫
名作ホラーのアンソロジー。『再生』側は新しい作品が多いが、『恐怖』側は著名作家のホラー選集を再集録した形になるので、作品は古いものが多い。この作品チョイスに触れて、胸が熱くなるのを覚えた。
ホラーオタクの昔語りになるが、創刊30年目を迎える角川ホラー文庫にも歴史がある。最初期は鈴木光司『リング』瀬名秀明『パラサイトイヴ』に代表される、角川お家芸の小説×映画の連動期。
最盛期は日本ホラー小説大賞が隆盛だった時期で、貴志祐介、岩井志麻子ら強烈な作家を世に送った。またこの時期、小松左京、高橋克彦、赤川次郎ら大御所作家の傑作選を編むことも活発な時期だった。
低迷期を迎えるのがゼロ年代中頃から。Jホラーブームが去り、本屋での扱いも目に見えてパッとしなくなった。だが、この頃の同大賞で出てきた恒川光太郎、朱川湊人、田辺青蛙らの「優しく切ないキャラクター小説」造形は、後の門戸を広げた。
ルネサンス期は10年代から。ライト文芸に則ったホラーがレーベルから出されるようになり、「ホーンテッドキャンパス」「バチカン奇蹟調査官」など、長期シリーズ化していった。これらが文庫レーベルを救ったのは事実だが、「1本凄い小説を出す!」といった賞発足当時の流れとは全く異なる方向を向くこととなり、日本ホラー小説大賞は終わりを迎える。
前置きむっちゃ長くなりましたが、『恐怖』側は勃興期~最盛期の頃の角川ホラー文庫の匂いが感じられるんですよ。「くだんのはは」とか「緋い記憶」とかあったな、赤江瀑の純文学ホラー、森真沙子の少女幻想譚また読みたいな…とか。小学生の頃に背伸びして黒背表紙を繰った読書体験が蘇ってきて、何とも言えない気持ちになりました。
・異形コレクション 狩りの季節 井上雅彦監修 光文社文庫
書下ろしホラーのみで構成された幻想怪奇アンソロジー。復刻後も、定期的に刊行されていて何より。
勝手な持論だが、ホラー短編の主人公は従来「無個性」だったように思う。訪れた村の因習、降りかかる災厄を観察し体験して読者に届ける「眼鏡」の役割を果たすためだ。
それが(上述したライト文芸潮流にも関係するが)「キャラクター小説」化するようになった。異形コレクションシリーズでも、これほどキャラクター小説の多い巻はなかったように思う。
無論、キャラクター小説にも強みはある。人物同士の遣り取りや、伝奇小説的なアクション・退魔展開が作れるからだ。だが、「彼らは果たして生き残れるのか?」というハラハラ感は(シリーズ既読勢からすれば)ないのだ。そりゃだって、死んだらここで終わっちゃうから。
だが、キャラクター小説にも「ハラハラ感」の抜け道があるのがこれまた面白い。牧野修、平山夢明といったバイオレンス作家は、小粋な台詞をカマすアウトロー達がフツーに首や手足を引っこ抜かれて死ぬ話を書く。
或いは澤村伊智の場合は、(比嘉姉妹)シリーズ主要人物を短編では端役に置き、語り手を初出のキャラにすることで緊迫感を失わせない。語り手の正体は不明だが、読み進めるうちに「実は死んでいた」「呪いの道具だった」などの非劇的な結末を迎えさせるのだ。
斯様にして、ホラー短編も日々進化を続けていく。異形コレクションは、どうかどうかこのまま続いて欲しい。
・瞬殺怪談 死地
・瞬殺怪談 罰 平山夢明ほか 竹書房怪談文庫
最長2ページ見開きまで!1話30秒で読めるサックリ怪談シリーズ。10人による競作。
これまた勝手な持論で始めるが、実話怪談というのは、(僕が本を手に取り始めた90年代後半では)「誰かの恐怖体験を、そのまま聞き書きした」というオーソドックスなものが多かったように思う。ところが、上記2冊は、バリエーションに富んでいる。
例えば「呪いの石」というテーマがあるとしよう。これはフツーに書けば
Aさんは河原で綺麗な石を拾った。ところがその日から、夜ごと魘されるようになった。遂にはざんばら髪の幽霊に襲われ、寺で供養して貰った。聞くところによれば、その河原は戦国時代に合戦場であったと云う。
となる。瞬殺怪談ではどう違うか?例えば、オチに捻りを加えるのだ。
「あの石ですか?近所の武田さん家に投げ込んでおきました。だってあの人、会うたびダンナ自慢するんだから」
そういって席を立つAさん。この後の予定を聴くと、「念のため」追加で石を拾いに行くという。
こういった具合に。幽霊話だった筈が、語り手が逆襲する/呪いを転嫁させるといった「ヒトコワ」ネタに持っていくのだ。
或いは複数の無関係な事件を繋げ、都市伝説風に仕立てるものもある。
古来、雷に関わる不思議は後を絶たない。2003年5月、オレゴン州に住むバーナビー氏は帰宅途中で落雷に打たれた。直撃は避けたものの、右腕に重度の火傷を負った。ところが不思議はこれで終わらない。彼は6年後の09年4月2日、再度落雷に遭うこととなる。今度は直撃だった。
また、こんな事件もある。2019年ニューデリー在住のミシュマ氏は、悪天候の中マイカーに乗車した。その瞬間、紫電が閃き彼の車を直撃。思わず身を屈めるミシュマ氏。だが幸いなことに、彼は無傷だった。その幸運を電話で家族に伝え、彼は下車した。ところが嵐に煽られた枝が彼を強打し、その場に叩きつけた。彼は突っ伏す形となり、水たまりで溺死を迎えた。
といった具合に。
他にも、(従来透明であるべき語り手が)多分に解釈を施して一種の説話譚にしたり、或いはラストの感想1文でオチをつけたり。
所詮は、人間が体験出来る恐怖なんて似たり寄ったりだ。それをいかに膨らませ、まとまりのある「お話」として提供できるか…怪談実話がつくづく「語りの文芸」であることを思い知らされた。読み捨て本ながら、いろいろ考えられる良い読書体験になった(ホラーオタク限定の思考回路
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