『ザ・バットマン』
 粗筋 ブルース・ウェイン=バットマンが裏稼業を初めて2年。ゴッサム支配層ばかりを狙った猟奇殺人事件が連続する。リドラーと名乗る犯人はバットマンを名指しして手がかりを残し、自分の後を追わせる。「嘘は沢山だ」という言葉が示す通り、現れてきたのはゴッサムが抱える巨大な欺瞞だった…。



 バットマン映画って、抽象度が高いものばかりだと思うんですよ。90年頃からコンスタントに作られるようになったバッツ映画は、大別すればアクション/シリアスの2タイプ。ジョエル・シュマッカーのゲイチックコメディ、ザック・スナイダー主導のDCUはアクション型。一方、ティムバートンやノーランはシリアス型に分類出来るでしょう。
 ノーランはリアルだろ?と思われるかもしれない。でも、「シリアス」であって、「リアル」とは別なんですよ。善悪の有りようを説いてはみるが、犯罪実行とその対抗法が現実的かには頓着しない。それが上手く行ったのが、究極の2択で人間の善性を試す『ダークナイト』。そして大失敗したのが、『ダークナイトライジング』でしょう。ピットからの脱出劇、ベイン体制への革命は「記号」として置いてあるだけであって、生きた人間が実際にやることかと言うと…。

 では、本作『ザ・バットマン』はどうか。何と、リアルな犯罪劇になってるんですよ。キャットウーマン・ペンギンらお馴染みのキャラは出るが、コスチューム劇にはなっていない。探偵が陰惨な事件に立ち向かい、物証を一つづつ拾って繋げ、真相を暴き出す。
 今作はフィルムノワールと呼ばれるジャンルの要素がふんだんに盛り込まれています。都市型犯罪、ハードボイルドな探偵と謎めいた女性、陰影の濃いナイトシーン、過去の傷との対峙…。小道具に至っては、あざといぐらい寄せてましたね。証拠画像をわざわざA4サイズにプリントアウトして「写真」の形で共有する、廃墟となったウェイン孤児院でリドラーが見せる映像は8ミリ映写機、全ての証拠を結びつけるときには写真と白線を結び付けたマインドマップを描く…など。


 基本はノワール調ながら、細かな変化を付けているところも特徴的です。本作、アメコミ映画では史上最長の3時間なんですが飽きが来ないよう調整がされている。
 例えば、アメコミ映画的な外連味。上述したタッチの映画のため、超能力や怪力は勿論出せない。けれどリアルなタッチだからこそ、前後のシーンとの落差で印象付けられる。ペンギンとのカーチェイスシーンでは、闇の中から先ずジェットエンジンの高音が鳴り響き、次いで青白いバーナー炎を噴き出してバットモービルが迫り出す。
 或いは警察署からの脱出では、それまでの密室乱闘から一転しバットグライダーで夜景の砂粒へと堕ちていく。ノーラン版バットマンは華麗に飛んで、穏やかに着地するんですが、今作は墜落に近い形だったのも対照的でしたね(パラシュートを開くも、架道橋に引っかかって地面に叩きつけられる着地に終わるのも良き)。

 何と、ユーモア要素すらあります。現場検証のシーンでは鑑識に「…ちょっと、半歩下がって」と窘められたり、立ち入り禁止テープを切ったバットラングを胸にガシャコ!と嵌め直すシーンがあったり。マットリーヴス監督は過去作『猿の惑星:聖戦記』でもユーモアを見せましたが、今作でもシリアスの中にそっと忍ばせる手腕は健在でしたね。


 
 スコセッシ調の『ジョーカー』、トロマ映画の『ザ・スーサイドスクワッド』、そしてフィルムノワールの『ザ・バットマン』。最近のDC映画は異色揃いで良いね!

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