2021年度下半期 印象に残った本その2
 長め。第三弾に続きます。


・読書について ショーペンハウアー 鈴木芳子訳 光文社古典新訳文庫
 頭が良くなる、教養が付く、人格を涵養する…。一般的には奨励される読書を、ペシミズム哲学者が苛烈辛辣に批評した箴言集。

 とはいえさ、読書しない人よりする人の方が、立派じゃん?
人生を読書についやし、本から知識をくみとった人は、たくさんの旅行案内書をながめて、その土地に詳しくなった人のようなものだ。こうした人は雑多な情報を提供できるが、結局のところ、土地の実情についての知識はバラバラで、明確でも綿密でもない
 これに対して、人生を考えることについやした人は、その土地に実際に住んでいたことある人のようなものだ。そういう人だけがそもそも語るべきポイントを心得、関連ある事柄に通じ、真に我が家にいるように精通している。


 …ああ、この理屈聴いたことあるね。外山滋比古の『思考の整理学』で、受動人間を「グライダー型」、能動発明人間を「飛行機型」って説明しててね…
できるかぎり核心のみ、重要事項のみを語り、読者が自分で考え付きそうなことは避けるべきである。わずかな思想を伝えるのに、多くの言葉をついやすのは、まぎれもなく凡庸のしるしだ。これに対して多くの思想を少ない言葉におさめるのは、卓越した頭脳のあかしだ。


 あ!そういや能動的読書で言えば『理系読書』って本も…
こうした努力は全て、つまるところたえず、あの手この手で思想に変わって言葉を売りつけようとする熱心な企てにほかならない。痛ましいまでに脳みそが足りないのを埋め合わせようと、新語、新手の意味合いの語、あらゆる種類の言い回しや合成語を用いて、懸命に知者を装おうとする。


 いうてショーペンハウエルって19世紀の人間でしょ?彼の時代より科学技術や娯楽は遥かに分化専門化していった訳だし、時代に付いていくためにも…
いちばん最近語られた言葉はつねに正しく、後から書かれたものはみな、以前書かれたものを改良したものであり、いかなる変更も進歩であると信じることほど、大きな過ちはない。
 真の思索家タイプや正しい判断の持ち主、あるテーマに真剣に取り組む人々はみな例外にすぎず、世界中いたるところで人間のクズどもがのさばる。クズどもは待ってましたとばかりに、例外的人物の十分に熟考した言説をいじくり回して、せっせと自己流に改悪する。


 …でも読書経験をこうして文章化・アウトプットすれば有益に…
少なくとも読書のために、現実世界から目をそらすことがあってはならない。読書よりもずっと頻繁に、現実世界では、自分の頭で考えるきっかけが生まれ、そうした気分になれるからである。もっと詳しく言うと、具体的なもの、リアルなものは、本来の原初的な力で迫って来るため、ごく自然に思索の対象となり、思索する精神の奥底を刺激しやすい。


 ………ブログなんて一般人の息抜きの場だから、どう書いたって…
陰でこそこそ言う人間は、臆病な卑劣漢で、自分の判断を公言する勇気すらない。自分がどう考えたかはどうでもよく、匿名のまま見とがめられずに、うっぷんを晴らし、ほくそ笑むことだけが大事なのだ。


 ぐうの音もねえな。
 寸鉄人を殺す珠玉のアフォリズムを、簡明な名訳で味わおう。



・1万人の脳を見た名医が教える「すごい左利き」 加藤俊徳 ダイヤモンド社
 右利き=左脳派と左利き=右脳派は、世界の認知から思考様式まで違う!左利き本来の特性を活かすことが、「選ばれた10%」に生まれた者の幸福である、と謳った本。

「競うな 持ち味をイカせッッ」(地上最強の男)。
 HSPなり発達障害なりギフテッドなり、「この手」の本でよく見るワードですよね。でも個人的に、その特性の(社会的)デメリットを矮小化する姿勢って不健全だと思うんですよね。
 
 この本の購読層は若年層・子育て世代だろうから、彼らの不安を取り除き肯定感を持たせるのはもちろん大事だ。それに、筆者は脳内科医ゆえ、脳機序の観点から書くのは尤もではある。でも、社会一般からして「ふつうではない」からこそ区別されるワケでしょ?
「この手」のジャンルでベストセラーになった本で、「ケーキを切れない非行少年」がある。あれが類書より優れていたのは、ここを直視していたからなんですよ。境界知能層は統計的に非行に走りやすい、非行は加害者被害者共に不便益だからこそ彼らを「ほどほどに」導くことが社会効用を上げる…。個人と社会の間ですり合わせを行い、妥協点を探す。こういう姿勢こそ、現実的じゃないですか。

 僕は中道左派(左寄りの両手利き)なんですが、少なくとも筆記する手は右手に矯正すべきだと思います。理由として
①漢字の運筆法は右上に上げ、下に降ろすを基本とするため右手の方が書きやすい
②画数の多い文字を書く場合、右手なら指先を固定して「腕・手首を引く」ようにして書く。左手の場合、ペンを持つ「指先で押す」形になるため、手首や指が疲れやすい。
③横書きノートの場合、板書した直前の文字列(図形)を筆記した手が覆い隠す格好になる。スムーズな書き写しにならない
④鉛筆書きだと小指球部がノートに擦れて、掌・ノート共にきちゃなくなる
などが挙げられます。左で書いてた頃はミニ下敷きを左手下に当てる、ノートを斜め15度傾けるなどの工夫はした。でも結局不便を感じるようになり、矯正しました。タブレット教育が進化するまでは、右手書きの方が効率的じゃねーかなー。

 確かに、「観察と推測を繰り返す」「右脳的イメージを言語化、見える化する」など、ライフハックの項目はついてます。でも、左利きに対してこれほど肯定感があるのは、筆者加藤氏の価値観を反映してるように思えて仕方ないです。スポーツ万能、ふと思い立って医学部に行き、斯界の第一人者となり、研究著述共に成功を収めた。そりゃ人生に肯定感満ちてるよな…。

 最後に一つ。「この手」の本で、「アインシュタイン・エジソン・モーツァルトなどの歴史的偉人も左利きだった(○○だった)!」って書くの、マジ醜悪だから止めましょ。
 沙漠で拾える、砂粒一つの例外です。肯定感を得たい読者の認知を歪めます。



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