2021年度下半期 印象に残った本その3
2021年度下半期 印象に残った本その3
 まだ続きそう。

鹿の王/鹿の王・水底の橋 上橋菜穂子 角川文庫
 軍事大国ツオルと、属領アカファ。微妙な緊張関係にある2国で、古の病が復活した。天才医師ホッサルは抗体を作るべく、奇跡的に生き延びた男ヴァンを追うのだが…。本格的医療ファンタジー。

https://magiclazy.diarynote.jp/202202012133559752/
 映画はこの前激クソ貶しましたが、原作はくっちゃ面白かったです。上橋先生のヒキダシがすげーの!
 近代医療をファンタジー語に咀嚼・定義したメディカルサスペンス、歴史・地政学・外交の席での肚の探り合いが絡み合ったポリティカルドラマ、非常民文化の造詣豊かな狩猟民族の生活風景…。それら3つの異なる空気が、一つの世界観に織り込まれ物語を成していく。医療分野の描写だけでも医学小説の賞獲ってるのに、3倍だぞ!3倍!

 それを思えば、キャラ大幅に削って、医療ドラマ・政治劇をゴッソリ削ったのに詰まらなかった映画版っていったい…。あの映画、案の定大爆死したらしいね。300館公開で4億はつれぇわ…。100ワニの5倍ぽっちやぞ…。



関西ヤクザの赤裸々日記 元暴力団員てつ 彩図社
 部屋住み、会長宅住み、組み抜けと服役、武闘派組織でのノシ上がり…。波乱続きのヤクザ人生をディティールたっぷりに綴った実録小説。

 ヤクザ実録もの。ヤー公と言えば高倉健/鶴田浩二のような映画任侠か、パンチパーマに白スーツでゴロまくヤンキーMk.2としてフィクションで描かれるもの。
ところが実際のヤクザは気配り・根回し・機先の3本柱が必要だと説いた、一種のお仕事ものになっている。
 殺しも恐喝もカチコミもない、けれど刺激と心労に富んだヤクザ人生の内容は確かに良い。けれど、もっと面白いのは話の描き方。「過去に起こした行動」「その時の意図」「後からの評価」をきちんと描き分けて記述している。PDCA回せる人だから、そりゃ(裏街道ながら)出世するわなーと納得させられる力がある。こういう本って大概ゴーストライターが書いてるんだけど、これに限っては本人の筆による部分が多いんじゃねーかな。



汚辱の世界史 JLボルヘス中村健二訳 岩波文庫
 古今悪党の隆盛と破滅を、詩情と皮肉の利いた文体で綴る。南米屈指の文豪ボルヘスの最初期作品。
 
 ボルヘス作品と言えば、「続審問」や「伝奇集」のように高踏で形而上的なファンタジーが思い浮かぶ。しかし今作は寧ろ、(翻訳が素晴らしいのもあるが)詩のように美しく、それでいて簡潔な文体が魅力。「はちみつ色の月が登り…」「裏路地にはギターとナイフが閃く」…カッケー文章表現なんだよなあ!!



スピリチュアリズム 苫米地英人 にんげん出版
 江原の説く「アートマンの永続/輪廻転生/魂の階層性」は、論理的にはオウムに行きつく!(執筆当時)日本を席捲していたスピリチュアルブームを、脱洗脳の専門家が鋭く切る。

 某K林M耶の電波離婚劇に触れ、思い出し購入。
 宗教批判の本は数あれ、氏の著書には類書にない魅力が2点ある。第一に、ロジック構成の巧みさ。激烈な無神論者で言えばドーキンスが居るが、彼は強力な論理を「ぶつけに行く」。科学的に、或いは社会効用的に宗教の有害さを説く。これは確かに、「周縁や外部」に居る層には届く。けれど、どっぷり浸かった人間には効かないんですよ。何故なら人間は、むき出しの物理宇宙ではなく「脳のフィルターを通した」記憶と意識の世界でしか生きられないから。
 それに対し、専門家ゆえ氏は「彼ら側のロジック」に則って脱洗脳に取り掛かる。宗教は敷衍するためには抽象度の高い説明原理が必要。権威付けのために借りた先行理論・教義内の齟齬を付き、内側から解体して「何だ、馬鹿らしいじゃん」と自分から気づけるようにする。

  もう一点は、抜群の比喩能力。高度に抽象的な理屈を取り上げる際にも、キャッチ―なフレーズや、具体的・体感的な表現に置き換えて説明出来る。仮観・空観・中観を「映画館」の喩えで説明したり、カルマと輪廻転生を「データベース」になぞらえたり…。それでいて誤謬がないのだから、説明力が異常に高い。

 矢鱈に本を書く人でもあって、教育・軍事分野の本に至っては「与太こいてんなァ!」と思わされることも多い。けれど、殊ご専門の脳機能・宗教方面の本はやっぱ凄いね。「洗脳原論」とこの「スピリチュアリズム」は手放しで人に勧められる。


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