『ベルファスト』『ナイトメア・アリ―』
『ベルファスト』『ナイトメア・アリ―』
とりま移転先。後4日間はDNで書きますが。
https://note.com/brave_nerine509/n/ne765b80066e4


・ベルファスト
粗筋 69年北アイルランド、ベルファスト。プロテスタントがカトリック少数派を迫害する暴動が起きた。少年バディは忘れられない日々を過ごし、やがて町を出ていく。

 数々の賞を受賞し今年度アカデミー賞でも注目される、ケネスブラナ―最新作。
 現代において、敢えてのモノクロ映画。
https://www.youtube.com/watch?v=LKYqz-hhxAE&ab_channel=%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%B3%E6%B4%8B%E7%94%BB%E9%A4%A8ORICONNEWS
A24的なアート映画ではないかと、身構えてしまう。しかし実際は、心温まるユーモアドラマだった。

 全編「こども目線」で貫かれており、瑞々しい。類似作と違い、アイルランド・イギリスの政治闘争を主眼にはおいていない。飽くまで9歳の少年バディが捉えられる、日常風景として描かれるのだ。それは家族であり、恋であり、野に摘むシロツメクサであった。

 では何故、モノクロなのか?それはごく僅か映される、極彩色の舞台/映画を際立たせるためだ。ブラナ―はインタビューに
当時のベルファストは白黒の世界に見えたので、シネマはカラフルな想像の世界への逃避だった

と語る。バディが目を輝かせ喜ぶのは、格調高いクリスマスキャロル劇や、対照的に俗猥でスリルのある「恐竜100万年」「チキチキバンバン」…。

 この映画はブラナ―の半自伝映画(オートフィクション)だ。過酷な時代を生き、ベルファストを抜け出しロンドンに行った少年は、やがてイギリス屈指の映画人となる。辛い現実も、フィクションへの逃避も芸術へと昇華して見せるブラナ―の手腕。『ナイル~』で舐めてて正直すまんかった。いや駄作評価は変わらんけども。
https://magiclazy.diarynote.jp/202202282052026062/
 
 

・ナイトメア・アリー
粗筋 流れ者の青年スタンは、見世物小屋の旅一座にふとしたことで加わる。老いた手品師からは読心術を、座長からはエゲツなさを吸収し、持ち前の華やかさでもってショービズ界をのし上がる。
 2年後、高級ナイトクラブには透視ショーで金を稼ぐスタンの姿があった。彼は更なる栄達を求めて、権力者に付け入る霊視ビジネスに手を出すのだが…。

 前作『シェイプオブウォーター』で遂にアカデミー賞を勝ち取ったギレルモ・デルトロ監督。最新作は『悪夢の行く町』をリメイクした、傑作ノワールサスペンスだった。

 3幕構成のお手本と言える映画だ。1幕目は、スタンの出発点となるクレム一座で展開される。47年のオリジナル版は端正さのあるモノクロ犯罪劇だが、今作はもっと淫靡で、闇の濃い雰囲気を放っている。私は寧ろ、ブラッドベリ原作の『何かがこの道をやってくる』を思い出す。
 デルトロ映画と言えば、「異形のファンタジー」だ。奇形児のホルマリン、鶏を引き裂く獣人芸”ギーク”、夜空に浮かぶ観覧車…。妖しく輝く移動遊園地の世界で、スタンは才知と根性でのし上がる。

 2幕目は、彼の栄達物語だ。クレム一座と同じように、彼は大都会でも他人を犠牲にしてアメリカンドリームを追求する。愛した筈のモリ―も道具にし、新たに出会う女性リリスをも手玉に取った(気でいる)。判事の伝手で大富豪とも繋がり、巨万の富を築く。

 だが、転落もまたアメリカンドリームの常だ。3幕目では、タロットに運命づけられた破滅が彼を襲う。モリ―に見限られ、リリスに裏切られ、彼はどこまでも堕ちていく。成り上がりを誓ったあの時計を、負け犬の象徴だった酒の代金へと替えるに至ってしまう。
 最後に辿り着くのは、初まりの地である旅一座。クレム座は解散しているが、別の座長に仕事を持ちかけられる。「これはちょっとした一時仕事なんだが…」。そう、それは獣人”ギーク”として、人間性を捨て檻で飼われることを意味していた。向こうの手口は百も承知…だが、スタンは阿片入りの酒杯を煽るのだった。

 本作は、47年版とラストが決定的に違う。私はそこに、デルトロ作品に通底する「異形の救い」を見た。『パンズラビリンス』において死の間際におとぎ話の世界で永遠の生を受けた少女のように、或いは『シェイプオブウォーター』において地上を捨て海に還った人魚姫のように…。哀れな末路かもしれないが、当人の魂は救われるラストだ。
 47年版では、獣人になったスタンはモリ―に救われる。正気と共に愛を取り戻し、座長の赦しも得る。一方の『ナイトメア・アリー』では、獣人へと堕ちる決断で幕が閉じる。だが、父を殺して始めた成り上がりの地獄行が、漸くここで終わってくれる。もう「気を張る」必要はない…たとえ貧救院に投げ捨てられる未来が待とうとも、余生は気楽に過ごせるのだ。
これが宿命だったんだ。

涙ながらにごちるその顔には、何処か安らぎが浮かんでいる。






 はい!新作レビューも今回で終わりっす!両作とも素晴らしい映画なんで、皆も観ようね!!

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